世界人口の増加と経済成長により、2050年には現在の1.6倍以上の食糧増産が必要になると予測されている。農作物の安定的かつ持続的な生産向上が急務となっており、特に干ばつは農作物の生長や収穫量に大きく影響を及ぼすため、植物が持つ乾燥ストレス応答のメカニズムを理解し、その技術を応用して不良環境下でも高い生産性を示す作物の開発が求められている。
こうした中、理化学研究所、東京大学らの共同研究グループは、植物が体内で移動性の「CLE25ペプチド」を使って根と葉で情報をやりとりし、乾燥ストレス耐性を高めていることを発見した。
植物は乾燥ストレスを感じると、植物ホルモンの一つであるアブシジン酸(ABA)を合成する。ABAは葉の気孔を閉鎖させ、植物体内から水分が失われるのを防ぐが、植物が土壌水分の減少による乾燥ストレスを根で感受した後、どのような仕組みで葉でのABA合成を促すのかについては、長い間不明だった。
今回、共同研究グループは、植物に乾燥ストレスがかかったときに根の細胞から道管に放出される「CLE25ペプチド」を発見した。さらに、このペプチドが葉に移動し受容体に結合すると、葉の維管束細胞内にABAの合成を開始させるシグナルが伝わることを解明した。
本成果により、植物は移動性のペプチドを用いることで根と葉という離れた組織間で情報のやりとりを行い、乾燥ストレスに応答していることが明らかとなった。今後、ペプチドによる乾燥ストレス応答の分子機構をさらに詳しく解明し、得られた知見を応用することで、乾燥をはじめとする環境ストレスに強い作物の作出や、植物の生育環境への植物ペプチドの応用といった技術開発につながることが期待できるとしている。
論文情報:【Nature】A small peptide modulates stomatal control via abscisic acid in long-distance signalling