埼玉県川口市立科学館の詫間 等氏が続けてきた太陽観測のデータが世界屈指の貴重なものであることが、名古屋大学宇宙地球環境研究所の早川尚志特任助教、川口市立科学館、国立天文台、ベルギー王立天文台の分析で分かった。

 人類にとって最も身近な天体、太陽は1610年以来、世界中の科学者たちによって断続的に望遠鏡観測が続けられてきた。これらは太陽活動の長期変動を明らかにし、地球環境への影響など議論の基礎に使用されてきた。しかし太陽活動の復元にあたっては各観測データの正確性、安定性の面で問題点も多い。黒点観測記録を取りまとめているベルギー王立天文台の近年の研究では、専門機関の観測所がシフト制で観測するより、個別観測者による均質性の高い観測データの方が長期的にも短期的にも観測データが安定すると指摘している。
 
 今回、研究チームが川口市立科学館に保管されている記録を調査、分析したところ、ベルギー王立天文台が把握したもの(1981–2010)より分量が多く、すべての観測が同一人物によるもので、他の長期黒点観測者のデータと比べて世界屈指の安定性を持つことが明らかになった。

 川口市立科学館には詫間 等氏が40年間にわたって観測した1万枚以上の黒点スケッチ記録、ログブックなどの太陽観測データが残されている。これらは詫間氏が川口市立児童文化センター在籍時(1972年5月から2003年3月まで)と川口市立科学館での2003年4月から2013年8月までの期間にそれぞれ一つの望遠鏡で観測したもので、観測人員、観測地、観測機材を固定して長期で安定的な記録が行われてきた事例として世界でも稀である。詫間氏のデータはこれまでベルギー王立天文台による黒点相対数復元には用いられておらず、研究チームが両者を比較したところ、非常に安定した観測結果であることが示された。

 川口市立科学館では2010年9月より運用している自動スケッチ観測の記録を含め取得された全ての黒点スケッチ記録を同館のWEBサイトで公開している。研究グループは川口市立科学館のデータが過去数世紀の太陽活動の変動を復元するのに大きく寄与する可能性があり、黒点スケッチ記録が短期的な宇宙天気現象の理解にも大きく役立つのではないかとみている。

論文情報:【Geoscience Data Journal】Sunspot observations at Kawaguchi Science Museum: 1972 –2013
参考:【川口市立科学館】Solar Data(太陽画像一覧)

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