理化学研究所、奈良女子大学、鳥取大学などからなる国際共同研究グループは、「パイ中間子原子」という奇妙な原子を、従来の数十倍の時間効率で大量生成することに成功した。

 原子の中には電子と原子核が存在し、原子核は陽子と中性子によって構成される。陽子や中性子を分割すると、素粒子であるクォークとなる。電子は他の粒子に比べ無視できるほど軽いため、原子の質量はクォーク質量の和となるように思える。
ところが、実際はその100倍も重いという。これを2008年にノーベル物理学賞を受賞した南部陽一郎博士は、クォークに「クォーク凝縮」がまとわりついているためだと考えた。

 クォーク凝縮とは、クォークと反クォークが対となり真空中に凝縮している状態のこと。宇宙創成直後の高温・高密度状態では存在しなかったものの、その後宇宙が広がり冷えていく過程で発生したとされる。

 クォーク凝縮の存在を実証する鍵となるのが、原子核内部の精密測定だ。原子核の中は水の約100兆倍もの高密度で、宇宙創生直後と同様にクォーク凝縮の量が減少していることが期待される。そこで本研究グループは、原子核に電子ではなくその300倍の質量を持つパイ中間子を束縛させた「パイ中間子原子」の精密測定に取り組んだ。パイ中間子は原子核表面をこするような周回軌道をとるため、これを詳しく調べることで、原子核内部の情報を得ることができる。

 そして今回、理化学研究所が誇る世界最高強度の加速器を用い、従来の数十倍の時間効率で大量のパイ中間子原子のデータを得ることに成功。これにより、次のステップでは、より多くのデータから原子核内のクォーク凝縮の減少率を高精度で決定することを目指すとしている。

論文情報:【Physical Review Letters】Spectroscopy of pionic atoms in 122Sn(d,3He) reaction and angular dependence of the formation cross sections

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