東京農工大学の山本明保特任准教授らは鉄を含む超伝導体から強力な磁石を作ることに成功しました。医療分野やエネルギー分野、科学研究などで使用されている強力な磁石の使用コストを下げられるかもしれません。
超伝導体は一切の電気抵抗がない物質です。理科の教科書に載っているのを見たことがあるぐらい、という人も多いかもしれませんが意外と身近なところで使われています。例えば病院の検査で使うMRIの動作には強力な磁気が必要になるため、超伝導体を利用した電磁石が使われています。しかし電気抵抗をゼロにするには希少で高価な液体ヘリウムで-200℃以下の極低温まで冷却する必要がありコストがかかってしまします。こうした状況からより高温でも動作する超伝導磁石の開発が望まれています。
この候補となるのが鉄をベースに作られる超伝導体です。比較的高温でも超伝導状態に至るため、低コストで超伝導磁石が実現できると期待されています。しかしこれまで鉄ベースの超伝導体から磁石を作る技術は確立されていませんでした。山本特任准教授らはバリウム、カリウム、ヒ素を含む鉄からできる化合物に着目しました。比較的高温でも超伝導状態になることで知られている化合物です。この化合物の微細な結晶を焼き固めることで多結晶といわれる塊を作製したところ、小型の冷凍機でも動作する強力な超伝導磁石になったのです。これまでの多結晶は粒のつなぎ目から割れやすくなってしまう弱点がありましたが、この磁石は粒が均一で高い強度を持っています。
鉄ベースの超伝導体から磁石を作る技術が確立できたことで、将来的にMRI検査などにかかるコストを大幅に削減することができるようになるでしょう。また多結晶からできる磁石は強力な磁力によって割れてしまうことが欠点でしたが、それも克服する方法を実証したことで他の材料から作る磁石にも新たな道が拓けるかもしれません。