たくさん運動したり働いたりして疲れた日は、普段よりも眠くなるという経験が誰しもあるのではないだろうか。今回、「体の疲れがなぜ眠気につながるか」の仕組みが、筑波大学および東京大学の研究でわかった。
研究には、単純な体の作りでありながら哺乳類と共通した睡眠調節遺伝子を持つ線虫を用いた。ランダムに遺伝子を変異させた約6000匹の線虫の中から、睡眠時間が普通とは異なる(長い)個体を見つけ出し、原因遺伝子がsel-11であることを特定した。マウスにおいてもsel-11の相同遺伝子の働きを阻害すると睡眠が増えたことから、哺乳類でも同様の睡眠調節メカニズムに関わることを突き止めた。
sel-11は、細胞内の小胞体において不良品タンパク質を分解して細胞の機能を正常に保つ仕組み(小胞体関連分解)に関わっている。研究チームが小胞体関連分解と睡眠の関係についてさらに詳しく調べを進めた結果、小胞体関連分解が間に合わず不良品タンパク質が多くたまった状態(小胞体ストレス)になると、これを検出したPERKというタンパク質の働きにより、eIF2αというタンパク質が脳に働きかけて睡眠を促すことがわかったという。
すなわち、睡眠不足や疲労、疾患などで増加することが知られる小胞体ストレスが眠りのトリガーとなって、これを解消するために疲れた体と睡眠をつなぐメカニズムが働くことが明らかとなった。
本研究成果は、新たな眠気の制御法や効率的な疲労回復法への応用が期待されるほか、小胞体ストレスの関与が知られる糖尿病、パーキンソン病、アルツハイマー病などの疾患や、eIF2αの機能が加齢とともに低下することにも関係し、これら疾患や老化がもたらす睡眠異常の原因解明と治療法の開発にもつながることが期待される。
論文情報:【Cell Reports】ER proteostasis regulators cell-non-autonomously control sleep