京都大学、B.Creation株式会社、東北大学、東京大学のグループは、生態系シミュレーションと微生物培養系を用いた実験から、生態系に存在するネットワークが計算能力(情報処理能力)を持ち、人間がその能力を利用し得るという証拠を見つけた。
近年、様々な分野でニューラルネットワークを用いたデータ解析法(人工知能)が盛んに開発・利用され、その計算能力が評価・利用されてきた。しかし、生態系のネットワーク(例えば、食う−食われるといった種間関係)は、種間相互作用や種数を厳密に操作できず、データ解析の目的に応じたネットワークの最適化が事実上不可能なため、その計算能力・利用可能性は不明だった。
研究グループは、ニューラルネットワークの一種である、ネットワークの最適化が不必要なリザバーコンピューティングという技術を応用し、生態系のネットワークが持つ計算能力を定量化する枠組みを提示。さらに真核微生物テトラヒメナを用いた培養系による実験から、テトラヒメナの個体群動態がリザバーコンピューティングを行う条件を備えていることが分かった。
そこで、野外から得た魚類の個体数変動の時系列データを培養液の温度変化としてテトラヒメナ個体群にインプットし、魚類の個体数変動の近未来予測についてテストした。その結果、テトラヒメナ個体群は、線形回帰などのシンプルなデータ解析法よりも高い精度で近未来予測を可能とした。
今回のシミュレーションでは種数が多くなると計算能力も高くなり得ることが示唆され、高い生物多様性と高い計算能力が対応している可能性を示している。「生態系の計算能力」が生物多様性の新たな価値に光を当てることが期待されるとしている。
論文情報:【Royal Society Open Science】Computational capability of ecological dynamics