京都大学、浜松医科大学、新潟大学らの研究グループは、シロアリの王と女王の「ロイヤルフード」の採取と分析に世界で初めて成功した。
アリ、ハチ、シロアリなどは、労働する個体と繁殖する個体がそれぞれの役割に特化し、洗練された分業システムを持つ社会性昆虫である。王や女王は、働きアリからの給餌によって繁殖に専念し、何十年も活発な繁殖を続けることができる。この高い繁殖力を維持するための、王と女王の特別食(本研究で「ロイヤルフード」と命名)については、ミツバチでは女王になる幼虫に与えられるロイヤルゼリーが知られるが、シロアリでは全く未解明だった。
本研究ではまず、ヤマトシロアリの王と女王を野外のコロニー(巣)から採集し、ガラス製の容器で飼育を行いながら働きアリによる給餌行動を観察した。その結果、働きアリは王と女王を識別し、食べ物を選択的に与えていることを見出した。
次に、王・女王それぞれに給餌中の働きアリから直接ロイヤルフードを採取し、成分分析したところ、ロイヤルフードにはスフィンゴ脂質、ジアシルグリセロール、短鎖ペプチド、タンパク質などが含まれており、王と女王の食べ物が異なる成分組成であることも見出した。
また、標識物質の追跡から、働きアリが食べたセルロースからロイヤルフード成分であるホスファチジルイノシトールとアセチル-L-カルニチンが作られ、経口給餌によって女王の体内に移行することも明らかとなった。つまり、コロニー(巣)内で個体間の代謝経路を介することにより、ロイヤルフードが作られ、王・女王に渡されていると考えられる。
さらに、マイクロCTを用いた消化管構造の比較では、働きアリでは食べた木を腸内微生物の働きによって分解するための後腸が大きな割合を占めていたのに対し、王・女王では栄養の吸収器官である中腸が大きかった。このことも、採餌と消化の役割を分担する分業システムを支えるしくみの一つと言える。
本研究は、高い活動性と長寿を実現しているシロアリの王と女王のロイヤルフードという新たな研究領域の扉を開き、我々ヒトの健康長寿にも貢献する研究につながることが期待される。
論文情報:【PNAS Nexus】The royal food of termites shows king and queen specificity