皮膚の表皮細胞が温かい温度を感じる温度感覚を生み出していることを、自然科学研究機構 生理学研究所、同 生命創成探究センター、佐賀大学、慶應義塾大学、東京工科大学らの研究グループが明らかとした。
私たちは「熱い」「冷たい」などの温度を、主として感覚神経で感知しており、感覚神経に存在する温度感受性TRPチャネルと呼ばれる一群のイオンチャネルの活動が脳に伝えられると、温度感覚が生まれることが分かっている。しかし、32-39度ほどの「温かい」温度で活性化するTRPV3チャネルは、感覚神経にほとんど存在せず、多くが皮膚の表皮組織に存在している。そのため、感覚神経だけでなく皮膚の表皮細胞も温度を感知するのではないかという概念が以前から提唱されてきたが、意見が分かれていた。
本研究では、TRPV3とともに同じく表皮細胞に存在するが、機能がよく分かっていない蛋白質TMEM79に着目し、その働きを詳細に調べたところ、TRPV3とTMEM79が結合することで、温かい温度を感知する能力が制御されていることを見出した。
まず、TMEM79を欠損したマウスを作製したところ、通常のマウスに比べて表皮細胞におけるTRPV3電流が大きく、より温かい温度を好むことがわかった。この結果から、通常ではTMEM79によってTRPV3電流の大きさが抑えられているが、TMEM79欠損により電流の大きさが変わった結果、マウスの温度感覚に影響が出たことが推測された。
そこで次に、TRPV3とTMEM79が共発現することによる効果を調べると、表皮細胞でTRPV3チャネルとTMEM79が結合し、細胞膜上のTRPV3を細胞内に取り込むように働いており、さらにTRPV3は蛋白質分解に関わる小器官であるリソゾームに取り込まれ、分解されていることがわかった。このようにして表皮のTRPV3量が調節されることによって、皮膚での温かい温度を感知する能力がコントロールされていることが考えられるとしている。
この結果は、皮膚の表皮細胞での反応が脳まで伝わって温度感覚に影響を与えていることの明確な証拠である。本研究を発展させると、TRPV3やTMEM79を制御することで、私たちが温かいと感じる温度感覚をコントロールできる可能性も期待されるとしている。