高知工科大学の竹田真己特任教授らの共同研究グループ(他に順天堂大学、東京大学)は、記憶課題実施中のサルの脳活動を計測することにより、「ものを見て、ものを思い出す」際に、大脳側頭葉の神経回路が皮質層単位で柔軟に切り替わることを発見した。「ある神経回路は単一の認知機能を担う」という従来の学説を覆す知見とされる。
大脳の側頭葉は、「もの(物体)」に関する記憶を司る領域であり、この領域には記憶の記銘(覚える)や想起(思い出す)の際に活動する神経細胞(ニューロン)が多く存在する。しかし、このニューロン群が「ものを見た」知覚情報から記憶を想起する際にどのように協調して働くのか、背景にある神経回路やその動作原理は不明だった。
そこで今回、サルを用いて「ものを見て、ものを思い出す」際の側頭葉神経回路の働きについて調べた。まず、サルに対になった視覚図形を学習させ、ある図形を見たとき、対の図形を思い出すように訓練し、課題遂行中のサル側頭葉の二つの領域「36野」と「TE野」の神経活動を同時に計測した。
その結果、ものを見たときはTE野の浅層、思い出す際にはTE野の深層に神経回路を切り替えていた。また、36野ニューロンの活動は、想起する図形そのものを表象していた。さらに、これらの神経回路の信号は、図形の知覚時、想起時ともにTE野の皮質浅層のニューロン活動に影響を与えており、この神経回路の切り替えがうまくいかないとサルは正しく図形を思い出せなかった。
今回の成果は、記憶の想起に関わる大脳ネットワークの動作原理の理解を進めることにより、記憶障害の精度の高い治療につながることが期待される。