広島大学の中里亮太助教、池上浩司教授らのグループは、細胞に生えた「一次繊毛」の長さが24時間周期で伸縮することを発見した。
細胞には「一次繊毛」と呼ばれる数ミクロンの長さの1本の“毛”が生えており、細胞の状態や外部環境に応じて形を変えながら、細胞の働きを正常に保つ役割を担っている。
今回の研究では、マウス線維芽細胞の培養実験から、一次繊毛の長さが約24時間周期で伸縮することを発見した。線維芽細胞では、体内時計を生み出す「時計遺伝子」と呼ばれるタンパク質の合成と分解が約24時間周期で行われており、概日リズムが形成されている。一次繊毛の長さも、時計遺伝子により制御され、約24時間で伸び縮みする概日リズムを形成していることを見出したという。
線維芽細胞は、皮膚などに傷を負った際、創傷部位へ移動してコラーゲンなどを放出することで傷の治癒に働くが、一次繊毛が長い時間帯の線維芽細胞は、一次繊毛が短い時間帯の線維芽細胞と比べて創傷部位への移動速度が遅くなることも明らかとなった。例えば、昼に火傷を負った場合よりも、夜に火傷を負った場合の方が治癒までにかかる時間が長いことが報告されているように、傷を負う時間帯により傷の治る早さが異なる現象が知られているが、線維芽細胞の昼夜で異なる一次繊毛の長さがこの現象の原因の1つとも考えられる。
脳を構成する神経細胞やグリア細胞における一次繊毛の長さは、昼に比べ夜の方が長いことがマウス実験からわかったとしている。今回の発見で、一次繊毛と体内時計の新たな関係性が明らかとなったことで、一次繊毛が創傷治癒だけでなく睡眠や覚醒、ホルモン分泌、体温変化など概日リズムを持つ様々な生命機構にも関与している可能性が考えられる。本研究成果は、体内時計の新たな理解や、体内時計に関する知見を医療へ取り入れた「時間医療」の発展につながることが期待される。