畿央大学理学療法学科4年生の淡路彩夏さん、同大学の渕上健客員研究員と森岡周教授らは、脳卒中後、感覚運動機能障害により上肢運動機能の回復が停滞している患者のリハビリテーションに、動摩擦情報をリアルタイムでフィードバックできるウェアラブル装置を使用し、その結果を報告した。患者は停滞していた上肢機能が回復し、動摩擦情報による知覚生成を用いたリハビリテーション介入の有効性を見出した。
脳卒中後の麻痺した手指の感覚運動機能障害に対するリハビリテーションには、視覚刺激、電気刺激、聴覚刺激が使用されるが、これらは手指で物品を把持・操作する際に重要となる手指と物品との摩擦(動摩擦)情報をリアルタイムにフィードバックすることができない。
そこで、本研究では、脳卒中後の感覚運動機能障害を持ち上肢機能の回復が停滞している症例のリハビリテーション介入に、動摩擦情報をリアルタイムにフィードバック可能なウェアラブル装置を使用し、有効性を検証した。
患者は70歳代の男性で、毎日2時間以上のリハビリテーションを1ヵ月実施していたが、麻痺の回復が停滞し、依然として物体操作時に物体の落下が生じていた。麻痺側手指に装着した触覚センサーから物品に触れた際の触覚情報を取得し、それを振動に変換して鎖骨に装着した振動子から伝達する装置を用いた。皿からペグを9つの穴に入れ、再び皿に戻すリハビリテーションである9-Hole Peg Testを計15日間実施し、そのうち6~10日目にこの装置を装着した。
結果として、それまで停滞していた上肢運動機能が時間経過とともに改善を認め、物品把持に伴う過剰なつまみ動作と物品落下頻度の両方が減少したという。患者は、ウェアラブル装置を取り入れていた6~10日目に「手指の感覚がわかった」と話し、その後の11~15日目にはウェアラブル装置がないにも関わらず「自分の動きの感覚がわかり、(物体を)見なくてもできるようになった」という。
以上の結果から、動摩擦情報による知覚生成を用いたリハビリテーション介入が、脳卒中後の手指の感覚運動機能障害に対する新しい治療戦略となる可能性が示唆されたとしている。