2023年10月9日、大きな地震が観測されていないにも関わらず、伊豆・小笠原諸島と関東から沖縄にかけての広い沿岸で波高数十センチの津波が観測された。伊豆諸島・鳥島近海が発生域と見られるこの特異な津波(鳥島近海津波)について、東京大学地震研究所の三反畑修助教、佐竹健治教授、武村俊介助教、綿田辰吾准教授、弘前大学大学院理工学研究科の前田拓人教授、国立研究開発法人防災科学技術研究所の久保田達矢主任研究員の共同研究チームは調べを進めた。
防災科学技術研究所が運用する、紀伊半島から四国の沖合の海底に設置された「海底地震・津波観測網DONET」で記録された津波波形を解析した結果、同日の約1時間半の間に、鳥島近海で合計14回の小規模な津波が立て続けに発生していたことがわかった。これらの津波の山と谷が重なり合ったことで、鳥島近海津波の特に後半の津波は、波高が増幅し、個々の波高の二倍程度にもなっていたのだという。
また、ほぼ同時刻に、鳥島の南方約70kmに位置する海底火山・孀婦岩の周辺で複数のマグニチュード4~5の中規模地震が発生していたこともわかった。これが、14回の津波を繰り返し発生させた海底変動現象と考えられる。
本研究成果は、津波を発生させる海底変動現象が数時間のうちに十回以上も頻発し、小規模な津波の重ね合わせによって津波波高が増幅するという稀有な現象を、世界で初めて観測・立証したものである。同年10月下旬には、鳥島から孀婦岩にかけた周辺海域に火山活動による噴出物が含まれた浮遊軽石が発見されており、地震・津波の同時発生と海底火山活動との関連も示唆されるとしている。鳥島近海津波の原因となった未知なる海底変動現象のメカニズム解明が期待される。