北見工業大学、慶應義塾大学、東京大学生産技術研究所の研究チームは、非常に優れた酸素発生触媒となる鉄系超伝導材料を開発した。
酸素発生反応は、水から酸素が生成される電極反応で、水の電気分解や金属空気二次電池など、エネルギー分野において様々な用途で用いられている。しかし、過電圧が高く損失が大きいことや、安定性の高い触媒が存在しないことが実用化を阻んでいた。
本研究では、鉄系超伝導体として知られるSr2VFeAsO3-δについて、酸素欠陥量を制御して試料を合成する新たな方法を確立し、酸素欠陥量と触媒性能の関係を調べることを可能にした。この結果、Sr2VFeAsO3-δの酸素欠陥量を0.5より大きくすると、触媒性能と触媒安定性が著しく増強されることが見出された。
この原因を電気化学測定と第一原理計算によって探索したところ、酸素欠陥が直接酸素発生反応に関わっていることがわかった。酸素欠陥量が0.5より大きいと、酸素欠陥間の距離が十分に短くなるため、酸素原子の結合がスムーズに進行するのだという。
Sr2VFeAsO3-δは、酸素欠陥量に応じて超伝導材料にも酸素発生触媒にもなるマルチな機能性材料の最初の例といえる。John Goodenoughは1969年に、絶対温度と電子相関をパラメーターとして超伝導と反強磁性の相図を提案したが、今回これに超伝導とは無縁と考えられていた過電圧という新たな軸を50年ぶりに付け加え、電子磁気機能と酸素発生反応機能の相関が世界で初めて明らかとなった。
本成果により、十分な酸素欠陥量を持つ超伝導関連材料が酸素発生触媒の候補として有望であることや、逆に酸素発生触媒として知られた材料に手を加えることで超伝導材料を開発できる可能性も示されたといえ、今後これらの材料開発が飛躍的に進むと期待される。