東京大学先端科学技術研究センターの古賀千絵特任助教の研究チームは、幼少期の逆境体験のある人において、高齢者虐待の加害リスクが高いことを明らかにした。
これまで、幼少期に逆境体験(虐待、ネグレクトや家庭内暴力、親との離別など)を受けた者は、自分の子どもへの虐待のリスクが高くなることが知られ、これを指して「暴力の世代間連鎖」と呼ばれてきた。
一方、暴力の世代間連鎖が子ども以外の弱者、例えば高齢者虐待にも関連するのかについては十分に検討されてこなかった。そこで本研究チームは、JACSIS(The Japan COVID-19 and Society Internet Survey)が2022年に実施した調査をもとに、幼少期(18歳未満)の逆境体験がある人は高齢者(65歳以上)に対しても暴力を振るうリスクが高くなるのかを、20~64歳の男女13,318名を対象とした分析で検証した。
その結果、1,133人(8.5%)が高齢者に対する加害経験があると回答し、幼少期の逆境体験と高齢者虐待加害リスクの関連については、逆境体験が全くない人と比較して、逆境体験が1つある人の加害リスクが3.22倍、2つ以上ある人の加害リスクが7.65倍に及ぶことが判明した。また、うつ病や精神疾患、主観的健康感などの心理的因子が媒介要因として特に寄与していることもわかった。
本研究により、暴力の世代間連鎖が従来知られている子どもへの虐待のみならず、高齢者虐待にも影響を及ぼす可能性が示された。この結果から、暴力の連鎖があらゆる弱者に及ぶ可能性も示唆されるとしており、暴力を予防すること、および子どもの生育環境の重要性が改めて示された。今後は、暴力が発生してしまう原因について、個人的な要因だけでなく、社会・環境要因にも着目した上で、暴力予防のための研究を推進する必要があると考えられる。