広島大学と京都大学の研究グループは、院外心停止を起こし初回記録された心電図が「心静止(電気活動なし)」だった患者は、救急隊による高度な心肺蘇生のもとに病院へ搬送し治療しても社会復帰率(生活が自立し就労可能な状態)が非常に少ないことを明らかにした。
「心静止」は予後が悪いとする報告があり、報告を行った欧米諸国では生存可能性が非常に低いと判断される院外心停止患者に対し、救急隊による現場での心肺蘇生の差し控えや中止が可能だ。一方、日本の救急隊は院外心停止患者に対する蘇生行為の差し控えや中止は通常行わず、全患者が高度な心肺蘇生のもとに病院へ搬送される。しかし、初期波形心静止の院外心停止患者の生存率や社会復帰率についての質の高い解析データは存在しなかった。
研究グループは、日本の大規模データ(35,843人)を用い、初期心電図波形「心静止」の院外心停止患者に対する近年の病院前・病院搬送後の蘇生行為の施行状況や患者転帰、救急隊による高度な蘇生行為と患者転帰の関連を解析した。
その結果、発症30日後の生存患者は497人(1.4%)、神経学的に良好(自立生活し就業可能)だった患者は67人(0.2%)で、救急隊による高度な心肺蘇生処置の施行率は年々増加する一方、患者転帰に改善は認めなかった。また、救急隊による高度気道確保とアドレナリン静注は、患者生存の可能性増加と関連するも、神経学的良好の可能性の増加との関連はなかった。
研究グループは、良好な救命率・神経学的良好転帰の希求の重要性とともに、医療資源の限界も指摘している。今回の研究結果により、生命・人生と有限な医療資源に関する建設的議論が期待されるとしている。