九州大学の伊藤美菜子准教授らの研究グループは、妊娠中の喘息によって増加するストレスホルモンが、産まれてくる子供の喘息リスクを増大させることを世界で初めて発見した。

 妊娠中の環境要因(喫煙、ストレス、母親の喘息など)が産まれてくる子供の喘息の発症リスクを高めることが知られている。喘息を含むアレルギー性炎症には2型自然リンパ球(ILC2)が重要な役割を果たしている。しかし、妊娠中の喘息が胎児の免疫細胞にどのような影響を与え、子供の喘息発症にどのように関連しているのかは解明されていなかった。

 研究グループは、喘息を起こした母親マウスから産まれた子供を調べたところ、肺のILC2の数が増え、アレルギー応答を引き起こす機能も高まることで、喘息が悪化することを発見した。母親の喘息により、胎生期および成体の肺のILC2では共通するエピジェネティック(遺伝子の働きを調節する仕組み)な変化が維持され、アレルゲンに対するアレルギー応答が過剰になることが明らかとなった。母親が妊娠中にストレスホルモンであるグルココルチコイドに曝されることでも、胎児の肺ILC2に母親の喘息時と同様の変化が生じて、子供のアレルギー性炎症を増悪させることが分かった。

 これにより、子供の喘息リスク軽減には妊娠中の母体の喘息のコントロールやストレス管理の重要性が明らかになった。また、グルココルチコイドはステロイドであり、ストロイド治療がILC2の機能を高め、喘息リスクを増加させる可能性があることは臨床的にも重要な発見という。妊娠中の喘息治療や胎児への影響を理解し、安全で効果的な管理方法を見つけることにも寄与することが期待されるとしている。

論文情報:【Nature Communications】Maternal asthma imprints fetal lung ILC2s via glucocorticoid signaling leading to worsened allergic airway inflammation in murine adult offspring

大学ジャーナルオンライン編集部

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