麻布大学と徳島文理大学の共同研究により、妊娠の最初のステップである胚着床に、子宮内膜細胞への亜鉛の取り込みが必須であることが明らかとなった。
不妊症が大きな社会問題となる中で、不妊治療を行っても出産に至ることができない原因の一つとして不育症（妊娠は可能なものの流産や死産を繰り返す）が挙げられる。不育症には、胚の染色体異常の関与などが考えられているが、母体側の要因はまだ明らかとなっていない。
また、必須ミネラルの一つである亜鉛の不足が、妊娠しにくい状態をもたらすことも知られているものの、妊娠における亜鉛の詳細な役割についてもわかっていなかった。
本研究では、子宮の細胞に亜鉛（イオン）を取り込む役目を持つ亜鉛輸送体ZIP10に着目した。子宮内膜細胞でZIP10を欠損したマウスの妊孕性や女性ホルモンに対する応答性を検討した結果、胚着床の初期反応は認められるものの、胚が子宮内膜に浸潤できない着床不全となり、結果として胎盤の形成が不完全となり不育症や流産といった不妊を引き起こすことが明らかになった。その理由として、子宮内膜細胞でZIP10が欠損すると子宮の細胞で亜鉛（イオン）の取り込みが障害され、妊娠の成立と維持に重要な女性ホルモンであるプロゲステロンのシグナル伝達に異常をきたすことを見出した。
マウスだけでなく、ヒト子宮内膜細胞でも、亜鉛（イオン）がGLI1と呼ばれるZinc Finger転写因子の核－細胞質間輸送を制御していることを突き止め、亜鉛が妊娠の成立と維持に欠かせないことを分子レベルで明らかにしたとしている。
亜鉛は体内で作ることができず、食事から取り入れる必要があるが、成人女性の多くは潜在的な亜鉛欠乏であるとする報告もある。本研究成果は、妊娠を望む女性での亜鉛摂取の重要性を改めて示した。
