室蘭工業大学、豊田工業大学、工学院大学の研究グループは、クモの巣の粘着物質に、これまで知られていなかった「天然イオン液体」が含まれていることを発見した。
クモの巣は優れた粘着性を持ち、獲物を捕らえるための巧妙な仕組みを備えている。研究グループは今回、クモの巣の粘着成分(粘球[クモの巣の捕獲糸に形成される微小な粘着液滴])の構成成分を、最先端の手法(飛行時間型二次イオン質量分析(TOF-SIMS)、中赤外ハイパースペクトルイメージング)を用いて詳細に分析した。
その結果、粘着物質には水和リン酸二水素コリンが含まれており、これがイオン液体として機能していることを突き止めた。このイオン液体は、粘着物質の中のタンパク質を溶解する働きを持ち、クモの糸が獲物に付着した後に水分が蒸発することで、その濃度が変化。結果としてタンパク質の硬化を促進していた。
イオン液体は、常温程度の温度で液体の状態を保つイオンのみで構成された塩の総称。低温でも液体のまま存在し、揮発性が低く、溶媒特性や電気伝導性に優れ、幅広い分野で応用されている。今回の研究で、水和リン酸二水素コリンが粘着物質の粘度や硬化プロセスを調節し、天然のイオン液体としてクモの糸の優れた粘着性を支え、さらにクモの粘着物質の均一な分布とその環境応答性に寄与していることが分かった。
クモの巣の粘着物質は、単なるタンパク質と水の混合物ではなく、天然のイオン液体を含む高度に制御された接着システムであった。今回の発見は、自然界の接着メカニズムの理解を深めるだけでなく、新しいバイオ由来の接着剤や機能性材料の開発にも貢献する可能性があるとしている。