京都産業大学の木村成介教授と天野瑠美さん(博士後期課程3年次)らは、アブラナ科植物のRorippa aquatica(以下、R.aquatica)を用いた中学校理科の新しい実験を発案した。
中学校の理科で学習する生物の生殖のうち、植物が根や葉から新しい個体を再生するものを栄養生殖と呼ぶ。これまで、栄養生殖の教材にはイチゴやジャガイモなどが使用されてきたが、これらの栄養生殖は、あらかじめ準備された分裂組織から新しい個体が形成されるもの。一方、今回取り上げたR.aquaticaは、葉や根など完全に役割が決定された器官に新しく分裂組織を形成するタイプで、これまでの教材では学ぶことができなかった栄養生殖の性質を持っている。
R.aquaticaは北米の湖畔に生育する水陸両生の植物で、日本では「ウォーターナスタチウム」という名称で水草として販売されている。水流などにより葉がちぎれると、葉の断面に分裂組織を形成して新しい個体を再生する。2週間程度と比較的短期間で再生を完了する点も、学校教育用の教材として適したポイントだ。
また、簡単な作業で栄養生殖の過程を観察できることも欠かせない。研究グループは、プラスチック製のバットに水道水を含ませたペーパータオルを敷き、切断したR.aquaticaの葉を並べ、乾燥を防ぐために食品用のラップフィルムをかけるだけで、再生の様子を経時的に観察できることを示した。
教材としての有効性を検証するため、東京学芸大学付属小金井中学校3年生(2017年9月当時)への授業実践も行った。全ての生徒が2週間以内に葉の断面から新しい個体の再生を観察し、授業後のアンケートでは、76%の生徒が「授業を通じて生物の生殖に興味をもった」と回答した。これにより、生物の生殖に対する理解のみならず、興味関心を引き出すことのできる教材であることが実証されたといえる。
本研究成果は、日本生物教育学会が発行する「生物教育」(2019年8月発行)に掲載され、掲載号の表紙にも選ばれているという。
参考:【京都産業大学】生命科学部 木村 成介 教授と大学院生の天野 瑠美さんらの共同研究グループが、中学校の理科教育における新たな生徒実験を発案