ヒトは痛みをともなう運動に対して、「全く動かない(過剰な回避行動)」、「痛みを避けながらも動く(疼痛抑制行動)」、「痛みを避けずに動き続ける(疼痛行動)」などの行動をとることができる。
痛みに対する回避行動は、身体を損傷から保護する短期的な利益がある一方、傷が癒えた後でもそれを続けると、痛みを長引かせる要因になるという。畿央大学大学院博士後期課程の西祐樹氏と森岡周教授らは、痛みをともなう運動に対する各行動特性の詳細や、どのような性格がそれぞれの行動をとらせるのかを明らかにするための研究を行った。
本研究における実験では、「運動をすると痛みが与えられ、自らの意志で痛みに対する行動を選択できる」タスクをオリジナルに作成して用いた。被験者がタッチパネルを塗りつぶす間に痛み刺激が与えられるもので、特定の運動方向に特定の速度で塗りつぶすと、痛み刺激が弱くなる仕掛けがある。これにより、痛みを過度に恐がり塗りつぶし行動を止める「過剰な回避行動をとる人」、痛みを避けながらも塗りつぶし行動をする「疼痛抑制行動をとる人」、痛みを恐がらずに塗りつぶし行動を続ける「疼痛行動をとる人」に分けることができる。
実験の結果、過剰な回避行動をとる人は、運動開始に時間がかかる、すなわち「運動の躊躇」がみられたという。また、疼痛抑制行動をとる人、疼痛行動をとる人では、痛み刺激がなくなると同時に恐怖反応が消失したのに対し、過剰な回避行動をとる人では、痛み刺激を止めても運動の躊躇と恐怖反応が残存していた。加えて、こうした人は、損害回避気質や特性不安が高いことがわかり、不安になりやすい慎重タイプの性格が、過剰な回避行動をとりやすい要因である可能性が示唆された。
本成果は、人の痛みを評価する際に個人の特性を配慮することの重要性や、回避行動を詳細に評価することの重要性を示すものといえる。