理化学研究所、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、日本原子力研究開発機構、東北大学、九州大学らの研究グループが、トリウム229アイソマー状態のエネルギーを決定することに成功した。
トリウム229の原子核は、基底状態からわずか数eV(エレクトロンボルト)のエネルギー領域に準安定状態である「アイソマー状態」を持っている。レーザー照射で作り出せる唯一のアイソマー状態であるとされ、超高精度な「原子核時計」への応用の可能性などから注目を集めている。しかし、2007年までの既報のアイソマー状態のエネルギー値は実験を行うグループの間で一致しておらず、新たな測定が待たれていた。
本研究グループは、超伝導遷移端センサーと呼ばれる高いエネルギー分解能のガンマ線分光器を独自に開発し、トリウム229原子核の第2励起状態からアイソマー状態への遷移エネルギーを精密に測定することに成功した。そして、先行研究で測定済みの、第2励起状態のエネルギーとの差をとることで、アイソマー状態のエネルギーを8.30±0.92eVと決定した。この値は、2019年に異なる実験手法で測定された、他の二つの実験グループによる最新の測定値とも一致した。
今後は、本研究で決定されたエネルギー領域の励起用レーザーを作製し、トリウム229原子核の精密レーザー分光の実現に向けて研究が進むと期待される。原子核時計は、原子核が基底状態からアイソマー状態へ遷移する際に吸収する電磁波の周波数を基準として作られる時計で、現在の原子時計よりも1桁以上高い精度が実現できるという。宇宙膨張に伴って変化する可能性が指摘されている基礎物理定数の恒常性の検証や、相対論測地学の計測ツールとしてなど、さまざまな分野への応用も期待できる。