がんは細胞社会の一つの細胞に変異(ミューテーション)が生じることから始まる。北海道大学遺伝子病制御研究所の藤田恭之教授らのグループは、新たに生じた変異細胞の多くが、周りの正常細胞との競合の結果、押し出されて体外へ排除されることを最近明らかにしてきたが、その分子メカニズムはほとんどわかっていなかった。
今回、これまでブラックボックスであった、がんの超初期段階で起こるこの現象のメカニズムの一端が、藤田教授らのさらなる研究で明らかになった。藤田教授らは、独自に確立した培養細胞系とマウスモデルを用いて、変異細胞が正常細胞層から排除される時の細胞内のカルシウムイオン濃度を解析した。その結果、変異細胞から周囲の正常細胞に向かって、カルシウムイオンが同心円状に波のように伝播していることを突き止めたという。
さらに、伝播したカルシウムの波(カルシウムウェーブ)を受けた正常細胞は、変異細胞に向かって押し寄せるように動くことによって、変異細胞の「押し出し」を促進していることがわかった。また、変異細胞の排除に伴うカルシウムウェーブは、哺乳類培養細胞層およびゼブラフィッシュの皮膚細胞層の両者で同様に観察されたといい、この現象が、進化の過程で保存された普遍的な現象であることが示唆された。
これらの研究成果は、新たながん研究分野の開拓につながり、ひいては世界初の「がん予防薬」の開発につながることが期待される。