九州大学の小江誠司主幹教授らの研究グループは熊本大学と共同で、酸素と鉄から成る新たな化合物を開発しました。これを水素イオンと反応させることで水を生成することも確認できました。既存の技術と組み合わせることで新しい燃料電池の開発が可能になります。
鉄と酸素の反応は生物がエネルギーを利用する際の中枢機能を担っています。例えば血液の酸素運搬が有名ですが、生命維持に欠かせない多くの化学反応に鉄を含む酵素が関わっています。こういった生物のエネルギー変換システムを理解することは、エネルギーを人工的に利用することにもつながります。グループが注目したのは水素も酸素も活性化することができる「酸素耐性ヒドロゲナーゼ」という鉄を含む酵素です。燃料電池では水素と酸素を活性化させて水を作る反応を用いますが、人工的にはプラチナのような貴金属を使わずには実現できていません。資源が限られていることやコストがかかることから、鉄で代用できれば燃料電池の普及を一気に加速させることにもつながります。
今回の研究でグループは「酸素耐性ヒドロゲナーゼ」の反応の中心となる部分を人工的に模倣した物質を合成しました。鉄原子の周りを酸素原子が取り囲むような構造をしています。これを水素イオンと反応させることで水を生成することに成功しました。これによってすでに開発済みの技術と組み合わせることで、プラチナを使わない燃料電池を作ることが可能になりました。
水素社会の実現に向けて、課題が着実に解決されていっています。水素元年とも言われる2015年も終わろうとしていますが、普及に向けた大きな一歩となるでしょう。