北海道大学、山梨大学などの国際共同研究グループは、新型コロナウイルスの下水中における存在実態に関連して現在までに得られている知見を体系的に整理し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行状況を把握する上での下水疫学調査の有用性を提唱する総説論文を世界で初めて発表した。
新型コロナウイルス感染の世界的流行は、国際的な公衆衛生上の緊急事態となっている。主な伝播経路はヒト-ヒト間での飛沫感染や接触感染だが、最新の研究報告はウイルスRNAが下水中に存在し得ることを示しており、下水をウイルス感染疫学の情報源として利用できる可能性がある。
研究グループは、下水疫学調査によりCOVID-19の感染流行状況を把握できる可能性、下水中の新型コロナウイルスの検出方法、ウイルスの健康リスク評価に関連する情報について現在までに得られている知見を精査した。新型コロナウイルスのRNAが感染者の糞便中のみならず下水中からの検出事例が急増しているが、下水試料からの効率的な検出手法の未確立が大きな課題となっている。また、ウイルスの曝露経路や感染リスクの評価に用いるデータも限られているが、関連する呼吸器系ウイルスに関する既往の研究データの活用によりリスク評価・モデリングが可能となり、COVID-19の感染制御に貢献し得るとする。
現時点では、下水中における新型コロナウイルスの存在状況、生残性及び水処理での除去効果に関する知見の不足により、新型コロナウイルスの伝播への下水の関与については不明だ。下水疫学調査のための手法の確立及び下水中における新型コロナウイルスの存在実態解明とそのデータの活用に向けた更なる研究が早急に求められるとしている。