熊本大学の西中村隆一教授らの研究グループは順天堂大学、広島大学と共同でヒトiPS細胞から作った腎臓組織がマウスの血管とつながることを示しました。再生医療における腎不全の治療に一歩近づいたことになります。
腎不全による医療費は毎年1兆円に上ると言われ、人工透析患者数は増加を続けています。腎移植の機会は限られているため、iPS細胞から腎臓を再生する技術の確立が求められています。再生医療研究が進む中でも腎臓を作ることは極めて困難とされていましたが、2013年に西中村教授らが試験管内でヒトiPS細胞から3次元の腎臓構造を作製することに成功しました。
多くの腎臓疾患では血液から尿をろ過する糸球体に異常が起こります。そのため今回は試験官で作成した腎臓の糸球体について詳しく解析しました。これによって、糸球体が機能するために必要な遺伝子が、再生した腎臓でも発言していることを証明しました。さらに、この腎臓をマウスに移植すると、発言した遺伝子の作用でマウス由来の血管が糸球体内に取り込まれることを突き止めました。実際に血液がろ過される様子を観察することもできました。今後はより長期の観察をすることで、腎臓全体がどこまで成熟するかを見ていく必要があります。現段階では尿の排出路ができていないため、本格的な尿の産生にはつながらない可能性があります。また、マウス由来の血管では糸球体とつながりましたが、ヒト由来の血管に置き換える必要があります。こうした課題を解決するには相応の時間がかかりますが、腎臓再生に向けて一歩近づいたと言えます。
なお、以前東京慈恵会医科大学が排尿可能な腎臓の再生に成功したというニュースを扱いました。多くの研究グループが少しずつ異なる課題を解決しているため、それらを組み合わせることで腎臓再生の実現は意外に早く達成されるかもしれません。