中部大学創発学術院の津田一郎教授と渡部大志研究員らは、脳などのニューロン(神経細胞)が複雑な網目構造に成長する「分化」過程を説明できる数学モデルを開発した。
これまでニューロンの分化を生物学的に考察した研究はあるが、メカニズムまではほとんど解明されていない。従来から提案されてきたニューラルネットの数学モデルでは、ニューロンを働きが分かった部品として定義し、それらを相互作用によってつなぐという考え方に基づいていた。しかし実際の分化を証明することはできなかった。
津田教授らは今回、従来とは逆の発想で、働きが決まっていない部品からなるシステムによる数学モデルを考案。このモデルは、「ニューロンは入力情報を減衰させないで最も効率よく伝達するよう分化する」部品、つまり「入力情報のネットワーク内での伝搬を最大化する」部品としてニューロンが自己組織化(自発的な秩序形成)するとした仮定に基づいている。
このモデルに数値を入力したところ、ニューロンが実際の神経細胞の活動を模擬したモデルが得られた。これは、スパイキングニューロンモデルと呼ばれ、神経細胞が発する活動電位(スパイク)を人工的に再現し、時間的な波形として再現する仕組みだ。また、そのネットワークも脳に近い構造に分化する様子を観測できた。これにより、モデルの正しさが証明された。
今回の成果をベースとして、より複雑な生体機能の分化が解明され、人工知能(AI)の活用で環境変化に適合するニューロンの分化の研究に弾みがつくことが期待される。