東京大学生産技術研究所の松永行子准教授と中島忠章特任助教の研究グループは、住友化学株式会社と共同で、動力や特別な材料を使わず、管状のコラーゲンゲル上での腸上皮細胞培養という非常に簡単な方法で、実際の腸に近似した「腸チップ」の作製手法を開発した。
食品や経口薬は全てまず腸で吸収されるので、その吸収効率や腸への影響の解析は、食品や経口薬の機能・毒性の検証に重要だ。従来、この試験方法はヒトの腸上皮細胞を2次元(2D)にプラスチック製のフィルターの上で平面的に培養し、形成された腸上皮シートを用いて行われてきた。しかし、実際の腸上皮は凹んだ陰窩(いんか)と突出した絨毛という立体構造を持つため、2D腸上皮シートでは生体を反映する評価試験として不十分であった。
研究グループは、生体の腸の形成過程では、管状に足場が制限されることで発生する力(応力)によって腸上皮の立体構造が形成されることに着目。そこで、管状のコラーゲンゲルの上で腸上皮細胞を培養すると、2D培養では形成されなかったひだ状の構造が確認された。このひだ状構造の凹んだ部分では細胞増殖が盛んで、実際の腸の陰窩と同様の性質を持っていた。さらに腸上皮細胞はその頂端部に微絨毛を形成するが、3D培養した細胞でも微絨毛が密集・林立して形成されていた。
今回開発した腸チップは、生体の腸のように3Dに広い表面積を持っているため、2Dのシート状構造より効率的に物質を吸収できる。さらに炎症誘導剤で腸炎を模倣することができ、薬物の吸収効率を調べられることが分かった。生体に近い形での食品や経口薬の吸収効率試験や腸への影響の解析に応用可能だとしている。