慢性腰痛患者に特徴的な筋活動として、立位で体幹を屈曲(おじぎ)した時に、完全屈曲位(おじぎをした姿勢)で背筋群が弛緩する「屈曲弛緩現象」が減弱・消失することが報告されている。また、完全屈曲位から体幹を伸展させる(おじぎから体を起こす)時には、背筋群の筋活動が増強もしくは減弱することも報告されている。
一方で、これら特徴的な筋活動と、慢性腰痛患者の疼痛関連因子の関連性は十分に明らかになっていない。特に、これらの要素が同時に変化するのか、どちらかが先行して変化するのかといった経時的な関連性が不明であることから、畿央大学大学院博士後期課程の重藤隼人氏と森岡周教授らは、慢性腰痛を有する1症例の筋活動と疼痛関連因子を経時的に評価し、シングルケースにおけるcross-lag correlation analysisを用いて検討を行った。
筋活動指標としては、表面筋電図を用いて、立位体前屈課題時の脊柱起立筋の筋活動を経時的に評価した。疼痛関連因子としては、疼痛(痛み)、能力障害、身体知覚異常、心理的因子の四つの指標を経時的に評価した。
そして、筋活動指標と疼痛関連因子の同時期における相関性を検討した結果、屈曲弛緩現象の指標として算出される屈曲弛緩比率と身体知覚異常の間に有意な相関が認められた。また、体幹を伸展させている時の筋活動と疼痛、心理的因子、能力障害にも相関関係が確認された。すなわち、立位体前屈における屈曲弛緩現象の低下の改善と身体知覚異常の改善が同時期に生じ、体幹を伸展する時の筋活動の改善と痛み、心理的因子、能力障害の改善が同時期に生じることが示された。
本成果は、慢性腰痛患者の筋活動異常の改善と疼痛関連因子の改善が同時に生じることを初めて明らかにし、逆に言えば、経時的な疼痛関連因子の変化が経時的な筋活動の変化に影響することを示唆するものである。本研究者らは今後、疼痛関連因子を考慮した慢性腰痛患者の筋活動に対するアプローチを検討していくとしている。