東京大学、東京農工大学、京都大学の研究グループは、虫歯菌の酵素から環境にも優しく、かつ耐熱性に優れた樹脂の開発に成功し、研究成果を「Scientific Reports」誌に発表した。

 現在、再生可能な植物バイオマスを原料とした「バイオベースプラスチック」の開発が強く求められている。自然界に存在する高分子多糖類を利用した従来のバイオベースプラスチックの合成方法は本来の結合や構造を壊すものであり、バイオマスの特徴を活かしたものとはならない。また、デンプンやセルロースに代表される高分子多糖類にはプラスチックとして必須の「熱可塑性」を持たないという問題があった。

 研究グループでは、虫歯菌が作る歯垢(バイオフィルム)が多糖類であることに着目、この酵素を利用して、セルロースでもデンプンでもない結合様式をもつ高分子多糖類「α-1,3-グルカン」の合成に成功した。水に溶けない性質をもち、簡単に回収できることから環境面で優れた合成法という。

 ここから、α−1,3−グルカンの分子構造中にある3つの水酸基をエステル基に置換した「α−1,3−グルカンエステル誘導体」が高い耐熱性をもつことも明らかにした。その融点は約300~340℃と、代表的な石油合成プラスチックであるポリエチレンの120℃、ポリエチレンテレフタレートの270℃を超える。

 またα-1,3-グルカン自体は熱可塑性は持たないが、α-1,3-グルカンエステル誘導体になると高い熱可塑性を発現することも発見。この誘導体で成型したフィルムの破壊強度は40MPaを超え、高い耐熱性と機械的性質からエンジニアリングプラスチックとしての利用が期待される。さらにα-1,3-グルカンが元々口腔内で合成されるバイオフィルムであることから、経口可能な素材・医療材料に利用することも考えられる。

 今回の研究では、試験管内で合成する際に反応温度を15℃まで下げることで、70万を超える巨大なポリマーを生合成することにも成功している。今後はポリマーの大量合成法の確立とともに、誘導体を用いた高強度・高耐熱性に優れた射出成型品の開発を行う予定としている。

大学ジャーナルオンライン編集部

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