名古屋大学大学院の徐華東大学院生と加藤昌志教授らの共同研究グループは、福井大学の藤枝重治教授らと共同で、スギ花粉飛散時期にスギ花粉症患者の鼻腔内では鉛濃度が高く、鼻症状を増悪させている可能性を示した。
重金属などの元素は大気汚染物質として健康障害を誘発する。一方、大気汚染の激しい地域の花粉は、非汚染地域の花粉よりも、アレルギー性鼻炎との関連で影響が大きい。しかし、季節性アレルギー性鼻炎患者の鼻腔内アレルギー反応への重金属の影響を、花粉飛散前と飛散期で調べた臨床研究の報告はなく、アレルギー性鼻炎が増悪した状態での重金属の鼻腔内曝露の影響を示す動物実験の成果はなかった。そこで研究グループは花粉症やアレルギー性鼻炎の増悪因子の調査を実施した。
まず、スギ花粉症患者と健常者の鼻症状アンケートと被験者の鼻腔表面を蒸留水で洗浄して鼻汁を採取し、その期間のスギ花粉飛散数を継続的に測定。次に、市販のスギ花粉とヒトサンプルに含まれている鉛・水銀・カドミウム等を測定した。その結果、スギ花粉症患者の鼻汁の鉛濃度は、健常者より40%以上も高く、この鼻汁鉛濃度の増加がスギ花粉症の鼻症状の増悪と相関する可能性を突き止めた。
また、スギ花粉の飛散数と鼻汁鉛濃度の相関関係から、鼻汁内の鉛の一部はスギ花粉由来の可能性が示された。最後に、アレルギー性鼻炎モデルマウスを用いた動物実験で鼻汁鉛濃度の増加が鼻アレルギー症状を悪化させることを確認した。
今後、アレルギー毒性学研究において、鉛の鼻腔曝露によりアレルギー性鼻炎が悪化する分子メカニズムの解明と、アレルギー性鼻炎を悪化させる他の因子の特定が重要としている。