総合地球環境学研究所陀安一郎教授、ふじのくに地球環境史ミュージアム日下宗一郎主任研究員、京都大学湯本貴和教授、東京大学総合研究博物館米田穣教授らの研究グループは、1305 人の現代日本人の毛髪を採取し、安定同位体分析を用いた食性解析によって食性の地域差を調査した。
人類はこれまで世界各地で地域固有の食文化を発展させてきたが、ライフスタイルの西洋化やグローバルに食料流通が行われるようになったことで、今後、地球規模に食性パターンが均質化していく可能性がある。研究チームは髪の毛の炭素・窒素同位体比から、現代日本人の食生活の均質化の評価を行い、流通や消費のグローバル化に伴って均質化していったと考えられる日本人の食性について、都道府県ごとに違いがあるのか否か検証した。また、性別や他国の調査結果と比較することで、現代日本人の食性を特徴づけることを試みた。
研究チームは各都道府県の1305 人から髪の毛の提供を受け、炭素・窒素安定同位体比を測定した。分析の結果、現代日本人の髪の毛の炭素・窒素安定同位体比は変動が小さいことが分かった。都道府県ごとの違いは非常に小さく、地域差が大きいことが確認されている縄文時代の食性とは大きく異なる結果となった。また性別で比較すると女性のほうが全体的に植物を摂取する割合が高いこと、1980年代の日本人の食性と比較すると、海産物に依存する割合が減少していることが示唆された。アメリカやヨーロッパと同位体比の変動は同程度であり、アジアの国々に比べると小さいことも明らかとなった。
本研究の成果から、髪の毛の安定同位体比からみると、現代日本人の食生活がアメリカやヨーロッパと同程度に均質化している可能性が示唆された。また、ヒトの髪の毛は個人の食生活を記録している重要な資料であり、人類の食生態や食の均質性を評価できる手法として、その安定同位体分析が有効であることが示された。今後は同位体比から日本人の食生活を歴史的に調べることも重要な課題だとしている。