温かい棒と冷たい棒が交互に並べられているグリルに手を置くと、本当は熱くないはずなのに、熱さや痛みを感じることがある。この現象は“サーマルグリル錯覚”と呼ばれ、脊髄-大脳皮質における中枢神経メカニズムによって生じると考えられているが、その痛みの性質が、実際に中枢神経を損傷した患者さんの痛みと類似しているのかは明らかになっていなかった。
今回、畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの大住倫弘准教授と森岡周教授らは、東京大学医学部付属病院緩和ケア診療部の住谷昌彦准教授らと共同で、サーマルグリル錯覚による痛みの性質を分析した。その結果、サーマルグリル錯覚における痛みの性質は、中枢神経メカニズムに起因する脳卒中後疼痛、脊髄損傷後疼痛と類似していることが判明した。
まず、健常者137名を対象とした実験では、サーマルグリル錯覚によって「ずきんずきん」、「焼けるような」、「うずくような」、「しびれるような」などの痛みが経験されることが確認された。次に、帯状疱疹後神経痛131名、三叉神経痛83名、脳卒中後疼痛31名、脊髄損傷後疼痛42名における痛みの性質を分析し、サーマルグリル錯覚によって生じる痛みの性質との類似/相違を調べたところ、サーマルグリル錯覚に特異的な痛みの性質は、末梢神経メカニズムに起因するような帯状疱疹後神経痛、三叉神経痛とは類似しておらず、中枢神経メカニズムに起因するような脳卒中後疼痛、脊髄損傷後疼痛の性質と類似していることがわかった。これは、サーマルグリル錯覚が中枢神経メカニズムによって生じるという説を支持する結果だ。
また、本研究で明らかになった実験的疼痛を利用することで、脳卒中後や脊髄損傷後に生じる痛みに対する新規リハビリテーションの考案や、リハビリテーション専門家と患者の間の痛みの共有に寄与する可能性がある。