東北大学大学院の東谷篤志教授らの研究グループは、宇宙無重力環境で生育したモデル生物の線虫では、ドーパミン量が減少し運動能力が減弱することを明らかにした。人類の長期宇宙滞在での健康維持に、大きな示唆を与えるものと期待される。
宇宙の無重力環境では、身体を支える力が不要なため骨や筋肉が急速に萎縮する。研究グループはこれまで、国際共同研究により、モデル生物である線虫Cエレガンスを用いた宇宙実験を複数回実施。その結果、宇宙の無重力下で幼虫から成虫に成長した個体の筋肉タンパク質やミトコンドリア代謝酵素の低下と運動能力の減弱を認めたが、その要因は不明だった。
研究グループは宇宙実験の成果を精査し直したところ、無重力ではドーパミンを分解する酵素遺伝子の発現低下を認めた。そこで、2018年に英国研究者との共同宇宙実験を企画。宇宙無重力下で成長した線虫の内生ドーパミン量を測定すると、無重力下でドーパミン量が著しく低下していた。
研究グループはさらに、無重力環境下での成育でドーパミン量が低下する理由について検討。培養バックに小さなプラスチックビーズを加え、線虫に物理的な接触刺激を増加させる実験を地上での疑似微小重力環境下で実施。その結果、線虫のドーパミン量の低下と運動性の減弱が回復した。
これにより、無重力では慢性的な浮遊状態により物理的な接触刺激の入力が著しく低下することで、運動調節に関わるドーパミン量が低下して慢性的に運動意欲が失われ、最終的に運動能力、筋力の減弱に至ることが明らかになった。
今回の成果は、宇宙飛行士の健康維持や超高齢化社会における健康寿命の増進などに役立つことが期待されるとしている。
論文情報:【iScience】Loss of physical contact in space alters the dopamine system in C.elegans