京都大学大学院農学研究科の松浦健二教授、森直樹教授、三高雄希博士課程学生らの研究グループは、世界で初めてシロアリの兵隊アリへの分化を抑制するフェロモンの特定に成功した。
シロアリの兵隊アリは働きアリから分化するが、興味深いことに、巣内で兵隊アリの割合が増加すると、働きアリから新しい兵隊アリへの分化が抑制される。これは「兵隊アリが新しい兵隊アリの分化を抑制するフェロモンを分泌しているため」だと30年以上前から予想されていたが、これまで兵隊フェロモンの成分特定に成功した例はなく、実態は未解明のままであった。
今回、同研究グループは、日本に広く分布するヤマトシロアリの巣から兵隊アリと働きアリを取り出し、それぞれの体表面にある物質を有機溶媒で抽出した。そして、その抽出液を成分分析し、(-)-β-エレメンと呼ばれる揮発性のテルペン類が兵隊アリでのみ大量に検出されることを特定し、この物質に「兵隊アリのへ分化を抑制する」効果があることを世界で初めて発見した。さらに、同グループは、このフェロモンが働きアリを集合拘束させる効果や、昆虫病原菌の成長を抑える効果を持つことも明らかにした。
本成果は、社会性昆虫のシロアリにおいて、巣内の役割分業がどのように制御されているのか、また、それに関わるフェロモンがどのように進化してきたのかを理解する上で、極めて重要な意味を持つ。