千葉大学大学院医学研究院の研究グループが、スギ花粉症に対する舌下免疫療法の作用メカニズムを解明。マスキュリンという新たな分子を確認し、舌下免疫療法のバイオマーカーとして、また同療法の改良への利用が期待されている。
アレルギー性鼻炎の患者数は増大傾向だが、一般的な抗ヒスタミン薬の内服やステロイド点鼻治療は対処療法であり根治治療ではない。低濃度の抗原を繰り返し曝露して免疫寛容を獲得する「舌下免疫療法」は、スギ花粉症の体質改善作用が期待される唯一の治療法だが普及には改良の必要があり、作用メカニズムが不明のため開発も進んでいない。
研究グループは、以前よりアレルギー疾患の病因となる記憶T細胞(Tpath2細胞)の研究を進めていた。今回、個々の細胞の遺伝子を網羅的に解析する「シングルセル解析」により、被検者7人の舌下免疫療法前後で計14の採血検体を比較した。
その結果、効果があった被験者は、スギ花粉に反応してアレルギー関連のサイトカイン(白血球や細胞同士の伝達物質)を産生するTpath2細胞が減少し、代わりに症状の発生が低減するTh2細胞(TransTh2細胞)と、炎症を抑制する制御性T細胞(Treg細胞)が増加した。また、Tpath2細胞がTransTh2細胞への変化を経て、Treg細胞へ分化する可能性を見出した。さらに、この変化はマスキュリン(MSC)という、Th2細胞の機能を抑制してTreg細胞への分化を促す因子が発現するためと判明した。
マスキュリンは舌下免疫療法のバイオマーカーに利用でき、変化の観察により舌下免疫療法の改良が期待できる。また、他のアレルギー疾患への応用も考えられるという。今後はこのマスキュリンの変化や意義を追求し、新たな免疫療法の開発を推進するとしている。