京都大学、茨城大学らの研究グループは、本来電子を流さない絶縁体であるイッテルビウム12ホウ化物において、強磁場中で電気抵抗と磁化率が磁場とともに振動する現象(量子振動)を初めて観測した。量子振動は通常、電気を流す金属でしか観測されない現象であり、このことはイッテルビウム12ホウ化物において金属とも絶縁体とも言えない前例のない電子状態が実現している可能性を示す。
「金属とは何か」という問いに対する最もシンプルで正確な答えは、「フェルミ面を持つ物質」である。フェルミ面とは、電子の示すフェルミ統計に従って運動量ベクトル空間のエネルギーの低い状態から全部の電子をつめたときに、電子で占められた状態と占められない状態の境をなす曲面をいう。
フェルミ面の存在を示す最も直接的なものとして、強磁場中で電気抵抗や磁化が外部磁場変化に伴って周期運動する「量子振動」がある。量子振動が観測されることは、フェルミ面の存在を示し、すなわち金属状態が実現していることを意味するというのが、これまで知られていた物理学の常識だった。
ところが最近、近藤絶縁体と呼ばれる物質のひとつであるサマリウム6ホウ化物において、絶縁体であるにも関わらず磁化の量子運動が観測され、大きな注目を集めた。そこで本研究グループは、別の近藤絶縁体であるイッテルビウム12ホウ化物の研究を行った。
結果、米国立強磁場研究所で行われた高感度磁化測定および精密電気抵抗測定において、磁化だけでなく電気抵抗における量子振動を観測した。このような「絶縁体の量子振動」の観測は前例がなく、従来の常識を覆す結果だ。
本研究を契機に、絶縁体における新展開が期待されるとしている。
論文情報:【Science】Quantum Oscillations of Electrical Resistivity in an Insulator