1890年(明治23年)9月、東京市麻布区(現在の港区)に、與倉東隆が創設した東京獣医講習所を起源とする麻布大学。先の大戦の戦禍により、学校として再起不能に陥る危機に見舞われながらも、卒業生及び関係者の熱意と尽力により、神奈川県相模原市に新生の麻布獣医科大学として再起を果たした。現在では獣医学部及び生命・環境科学部からなる2学部5学科へと発展を遂げている。学長として2期目を迎えることとなった浅利昌男先生に、大学の特長と将来展望についてお聞きした。

 

 すべての私立学校には、創立者がその学校を開設した思いを明示した“建学の精神”というものがあります。われわれ麻布大学が定める建学の精神は、創立者である輿倉東隆先生の言葉である『学理の討究と誠実なる実践』。本学では、この精神に従い「確かな知識を伝え、それを裏づける確かな技術を習得させる」ことを教育目標とする“実学主義”を標榜し、真面目に、しっかりとした教育を行い、有為な人材を育成することを目指しています。

 2018年、創立から128年を迎えた獣医学科の強みは、第一に、本学が獣医学教育を起源とすることから、これまでに輩出してきた獣医師数が日本一という点にあります。小動物から産業動物まで、各家畜の飼養管理や診療、臨床教育を、都心にも近いひとつのキャンパス内で実践・完遂することができるのは、首都圏にある5つの獣医系大学でも唯一、本学だけとなっています。

 これに加えて、戦後開設された動物応用科学科、臨床検査技術学科、食品生命科学科及び環境科学科も総合大学にはない学生と教員の距離の近さがあります。学部在籍者数が2500人前後という小規模大学の特長を生かすことで、学生が研究室に入室すると教員の目の行き届いた確かな技術教育・実学教育を実践していくことを可能にしています。同様の理由から、人と人のつながりを育みやすく、卒業生を含めた同窓生の絆の強さは、本学が自負するところになっています。

 

 

『地球共生系 One Health』を教育理念に
「ヒトと動物と環境」の健康をつなぐ研究を実践

 動物応用科学科及び生命・環境科学部の3学科は、今次で創立以来半世紀近くを迎える歴史を刻んでおります。そこで現在、本学が教育理念として掲げているのが、「ヒトと動物と環境」の健康をつなぐ『地球共生系 One Health』です。その根底には、動物の健康や環境の維持、つまり人間社会を含め、動物や環境の両者が健康であってこそ、良好な共生関係が結ばれるという認識があります。それぞれの健康を担う関係者が、緊密な協力関係を構築することにより、これら3者の健康を維持、推進していくという考えをもとに、世界につながる地球共生分野の学術領域を展開しています。

 具体的な取り組みとしては、全学科の学生が共通して学ぶ導入教育科目「麻布スタンダード科目」として、「地球共生論」を設置しています。科学技術の発展にともなう開発が、地球規模の環境変化を生み出していくなかで、人間がどのような役割を担っていくべきかを「ヒトと動物と環境」を通じて学んでいくのが本科目の目的。受講した学生たちからは、「さまざまな分野が広い意味でかかわっており、多方面から現在の地球環境について学ぶことができた」「普段学んでいることが、それぞれどのように関係し、役立っているかを認識させる仕組みになっており、非常に有意義な内容だった」といった声が多く寄せられています。

 

日本はもとより世界中の若者たちから選ばれる
オンリーワンの大学であるために

 また、最近の取り組みとしてご紹介したいのが、私立大学ブランディング事業です。本学のブランディング事業は、「動物共生科学の創生によるヒト健康社会の実現」をテーマに、ヒトと動物の共生を科学的に解明し、その成り立ちを介してヒトの健康社会に寄与するというもの。平成28年度第1回目の募集で、本学が選定率20%という難関をクリアし、支援対象校に選定されたことで、よりオリジナリティを発揮した研究に、学長のリーダーシップのもと全学をあげて取り組んでいくことが求められています。

 研究ブランディング事業という取り組みは、今後、私立大学が自校の看板となる研究を推進し、その成果をもって大学の独自色や魅力を発信すること。さらに、国からの援助を受けて、全学的な体制を充実させることにより、研究における強みや独自性をより一層強化できるもので、他大学との差別化をはかるチャンスともいえます。本学でもこれを絶好の機会ととらえ、全学の研究体制を集中させることにより、成功させていく所存です。

 そして、最後に語らせていただきたいのが、麻布大学の将来像について。先述させていただきましたとおり、本学は獣医学の勉強をするために設立された大学ですが、現在では環境衛生の分野でも多くの実績を残しています。これからは、「麻布大学=獣医学」というイメージから更に発展させ、「ヒトと動物と環境」について学ぶことのできる、日本で唯一の大学としてのイメージを浸透させていくことを大きな目標に設定します。日本はもとより世界中の若者たちから選び続けられる、専門性の高い大学に成長させていきたいと考えております。

 

麻布大学
学長
浅利 昌男
獣医学博士
1974年 麻布獣医科大学獣医学部獣医学科卒業
1976年 岩手大学大学院農学研究科修士課程修了
1977年 麻布獣医科大学助手
1995年 麻布大学教授
2014年6月 麻布大学学長に就任
2018年6月 麻布大学学長に再任

 

 

麻布大学

動物、食、環境、健康といった私たちの暮らしに密接な学びで、スペシャリストをめざす!

麻布大学のルーツは、明治23年(1890年)、與倉東隆によって東京の麻布(現 港区南麻布)に開設された「東京獣医講習所」にさかのぼります。1950年に麻布獣医科大学として開学、1980年に麻布大学に改称。麻布大学では建学の精神「学理の討究と誠実なる実践」のもと[…]

大学ジャーナルオンライン編集部

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