少子高齢化が進む日本の社会において、人々の健康を維持したり、安全を確保したりするための「食」に関する知識の必要性は、ますます高まってきています。そうした需要に応えることのできる「食のエキスパート」を多数輩出しているのが、麻布大学の食品生命科学科です。この分野ならではの高い専門性が求められる人材は、どのようにして育成されているのでしょうか。同学科の教授、小西良子先生にお話を伺いました。

 

 

HACCPが義務化された今の日本に必要な人材

 麻布大学の生命・環境科学部に食品生命科学科が誕生したのは、2008年4月。食の情報、食の機能、食の安全を総合的に学べる場を作り、食品業界の幅広いニーズに対応できる人材を輩出することを目指して設立されました。中でも同学科が重視しているのが、近年注目されている国際的な食品安全基準、HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)システムに関して広範な知識を持つ人材の育成です。

 「もともとHACCPは、絶対に食中毒を起こさない宇宙食を製造するための衛生管理方法として、米国のNASAが考案したシステムです。従来の衛生管理方法では、たとえば工場で作られる食品の場合、製造ロットの5パーセント程度を抜き取って検査し、OKなら出荷するというものでした。でも、食中毒を起こすような菌は、1万個の中の1個程度にしか存在しない場合もあるんです。HACCPでは、原材料の一次生産の段階から安全かどうかを綿密にチェックします。施設の設計にも厳しい基準があって、食材の保存環境や調理環境のゾーニング(区分け)も厳密に行わなければなりません。掃除や洗浄、温度管理などのチェック方法や、何かあった時の対策の準備など、各段階で徹底した衛生管理を連続的に行っていくのが、HACCPの考え方です」と小西先生は話しています。

 HACCPシステムは、2018年6月に食品衛生法の改正時にも取り入れられ、今後すべての食品事業者はHACCPに基づく衛生管理計画を策定することが義務付けられました。2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催も近づく中、国内では食品衛生監視員などの公務員のほか、民間企業でもHACCPについて正確な知識を持っている人材の確保が急務となっています。麻布大学食品生命科学科では、そうした現場で即戦力となるHACCPシステム管理者を養成しているのです。

 

 

学生の“伸び率”を高める学びの環境

 麻布大学の食品生命科学科を志望してくる学生の方々は、食品が大好きな人やアレルギーの研究をしたいという人など、最初から「食」の研究に対するモチベーションが高い人が多いそうです。

 「本学科では、基礎から応用まで、食にまつわるさまざまな知識を学べるカリキュラムを用意していて、一年生の時から積極的に実習にも参加してもらいます。研究室同士での連携や、外部の機関や企業との共同研究にも取り組んでいます。卒業後の学生たちの就職率も、2年連続100%を達成しています。

 小規模な大学ならではの先生や学生同士の距離感の近い環境も、学生の“伸び率”の高さに影響していると思います。本当の意味での「食のエキスパート」として社会で活躍するためには、専門分野での研究や活動に取り組むだけでなく、それらの取組の意味や重要性を、他の人々や社会にきちんと伝えることのできるコミュニケーション力も必要になる」と小西先生は言います。

 私たちの社会にとってなくてはならない「食」という大切な要素を、さまざまな側面から支える能力を持つ「食のエキスパート」の存在価値は、今後ますます高まっていくことでしょう。
 

麻布大学

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麻布大学のルーツは、明治23年(1890年)、與倉東隆によって東京の麻布(現 港区南麻布)に開設された「東京獣医講習所」にさかのぼります。1950年に麻布獣医科大学として開学、1980年に麻布大学に改称。麻布大学では建学の精神「学理の討究と誠実なる実践」のもと[…]

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