東京農工大学大学院の村上智亮准教授らの研究グループは、ニホンリスが加齢に伴い頻繁にフィブリノゲンα鎖アミロイドーシスを発症することを明らかにした。フィブリノゲンα鎖アミロイドーシスは人の稀な遺伝病だが、人以外の動物での発見は今回が初めて。
フィブリノゲンα鎖アミロイドーシスは、血液凝固などに関わるフィブリノゲンα鎖がアミロイドを形成し、腎臓の糸球体等に沈着して腎障害をもたらす人の遺伝性疾患。患者数は世界的に少なく、病気のしくみも不明点が多いため、決定的な治療法はない。このため、正確な病態の把握に基づく治療法の開発が望まれている。動物での研究が人に役立つ可能性があるが、この疾患は人以外の動物では見つかっていなかった。
研究チームは今回、国内の動物園で斃死したニホンリス計38例の全身臓器を対象に病理組織学的解析を実施。29例(76.3%)に腎臓の糸球体へのアミロイド沈着を特徴とする全身性アミロイドーシスが生じていることを発見し、アミロイドの原因タンパク質がフィブリノゲンα鎖であると同定した。
詳しい調査により、ニホンリスにおける発症因子として遺伝的素因は否定された。また、ニホンリス高齢個体のアミロイドーシス罹患率は約9割で、統計解析の結果、加齢とアミロイドーシス発症に有意な関係を認めた。これにより、ニホンリスのフィブリノゲンα鎖アミロイドーシスは、この種が元来抱える加齢性疾患であると結論した。
今後、「なぜニホンリスのフィブリノゲンα鎖はアミロイドを形成しやすいのか」について詳細に解明することで、ニホンリスの健康維持や人の治療法開発につながる病態解明への貢献が期待されるとしている。