母乳中のアミノ酸代謝から産生される過酸化水素が、乳子の腸内細菌叢(腸内フローラ)の多様性を低く抑えていることを、東京農工大学の研究グループが明らかにした。
腸内細菌叢は、生まれて間もなく形成が開始され、哺乳期間に獲得した菌叢パターンが生涯大きく変わらずに維持される。母乳で子を育てる哺乳類では、哺乳中の腸内細菌叢の形成に母乳が関与していることが予想される。
本研究では、母乳中に多く含まれるアミノ酸代謝酵素遺伝子(LAO1)を欠損させたマウス(LAO1欠損マウス)を用いて、母乳にLA01が含まれるか否かで子の腸内細菌叢が変化するかを調べた。その結果、通常のマウスから母乳を摂取している子マウスの腸内細菌叢は、そのほとんどが乳酸菌で占められ、菌の多様性が抑えられていた一方、LAO1欠損マウスの母乳を飲んでいる子マウスの腸内細菌叢には様々な菌が存在し、大人の菌叢に近い状態だった。また、LAO1は乳子の消化管内でも機能を失わず、アミノ酸を分解して過酸化水素を産生すること、過酸化水素は乳酸菌以外の細菌に対して抗菌性を示すことが確認された。すなわち、乳子の消化管内で産生される過酸化水素が、侵入してくる細菌群から選別して乳酸菌を優先的に腸内に定着させていると考えられるという。
母乳が哺乳期間中の子の腸内細菌叢の多様性を抑えることの生物学的意義は、まだわかっていない。しかし、本研究のモデルマウスを用いることで、腸内細菌の多様性の違いが生後の生体機能にどのような影響を与えるか、検討が可能となるとしている。また、本研究成果は、過酸化水素をはじめとした活性酸素による腸内細菌制御法の開発にもつながる可能性がある。