自治医科大学は、理化学研究所、山梨大学と共同で、中枢神経に転移した急性Tリンパ芽球性白血病(T-ALL)に有効な新規分子標的薬の開発を成功させた。
T-ALLは小児からAYA世代(思春期・若年成人)に多く発症する血液がんである。骨髄移植と抗がん剤を組み合わせた治療が行われているものの、1990年から2001年に治療したT-ALLの5年生存率は35%と、その予後は極めて不良である。中でも、白血病細胞の中枢神経(脳)転移がある患者では5年以上の生存が望めないことから、脳転移のある患者にも有効な新規治療薬の開発が切望されていた。
これまでの研究で、同グループは、T-ALLの発症にリジン特異的脱メチル化酵素(LSD1)が関与することを突き止めており、本研究では、このLSD1の阻害によりT-ALLの発症が防げると着想した。検討の結果、脳への移行性が優れ、特異性が高く、低濃度でも有効な新規LSD1阻害剤の創出に成功した。このLSD1阻害剤は、白血病モデルマウスにおいて、脳に転移した白血病細胞の増殖抑制と生存期間延長効果を示した。今後、臨床試験によりヒトでの安全性と有効性が検証されれば、脳転移にも有効な世界初の分子標的薬として大幅な延命効果が期待できる。
本成果は、T-ALLの予後の改善に結びつく重要な発見であり、「リジン特異的脱メチル化酵素1阻害活性を有する新規化合物、その製造方法及びその用途」という名称で特許も出願している。現在、臨床応用に向けて製薬企業と交渉を進めているとのことだ。