北海道大学、東北大学、名古屋工業大学の研究グループは、リチウムイオン電池の低コスト・高容量・高寿命かつレアメタルフリーな正極材料の開発に成功した。

 今や生活に欠かせないものとなったリチウムイオン電池は、現行では正極材料にコバルトやニッケルなどのレアメタルが使用されている。リチウムイオン電池の需要増大とともに、資源枯渇や価格高騰などサプライチェーンリスクが深刻な課題である。そこで本研究グループは、レアメタルフリーな鉄を主成分としたリチウムイオン電池正極材料の開発を進めてきた。

 研究グループが先行研究で開発したリチウム鉄酸化物(Li5FeO4)は、既に商品化されているリン酸鉄リチウム(LiFePO4)の2倍以上の容量を示すことが明らかになっている。ところが、Li5FeO4は充電時に酸化された酸素分子が放出されてしまうことで、サイクル寿命が悪いという欠点がある。本研究では、Li5FeO4のサイクル特性を向上させるため、充電時に起こる酸素脱離反応を抑制する方法を探索した。

 結果として、Li5FeO4にシリコンやリンなどのpブロック元素(周期表の13~18族の元素)を導入することによって酸素脱離反応を抑制できることを見出した。pブロック元素のうち特に13~16族の元素は酸素と強く共有結合をすることが知られ、酸素脱離抑制に寄与するため、サイクル性が向上するという。

 開発した材料の10サイクル充放電後の容量維持率を評価すると、50%から最大90%まで大きな向上を認めた。最も高い性能を示したのはシリコンを導入した材料だったが、鉄のレドックス(酸化還元)反応も合わせた正極全体のエネルギー密度では、リンやゲルマニウムを導入した材料の性能が高かった。こうして、不安定な酸素のレドックス反応を安定化した上、鉄と酸素の二つのレドックス反応を利用することで、正極全体のエネルギーを高容量化することができる。

 本研究成果は、高性能なレアメタルフリー正極材料の設計指針として有用と考えられ、研究進展による低炭素化社会、地球温暖化対策への貢献も期待される。

論文情報:【ACS Materials Letters】Toward Cost-Effective High-Energy Lithium-Ion Battery Cathodes: Covalent BondFormation Empowers Solid-State Oxygen Redox in Antifluorite-Type Lithium-Rich IronOxide

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