建学の精神である「敬神奉仕」のもと、学生たちが「自分らしい自分」「なりたい自分」を実現できるような教育やサポートを行っている東洋英和女学院大学。開学から35周年を迎えた現在、教員と距離が近く、学生たち一人ひとりを大切にする教育をさらに充実させるための改革を構想しているそうだ。東洋英和女学院大学の特長、そして思い描く未来の姿を星野三喜夫学長にうかがった。
「自分を愛し、他人を愛し、他人のために尽くす」英和スピリッツを養う教育
1884年にカナダ・メソジスト教会婦人ミッションから派遣された宣教師、マーサ・J・カートメルによって設立された東洋英和女学校。女子教育という概念が浸透していなかった当時の日本で、女性のための教育にいち早く取りかかった学校のひとつだ。現在の東洋英和女学院では幼稚園から大学院まで含めて約3,000人が学んでおり、幼稚園と大学院は性別問わず門戸を開いている。
東洋英和女学院大学は1989年に4年制大学として開学。学院の建学の精神はマルコによる福音書に基づく「敬神奉仕」だ。
「神を敬い、神から自分が愛されているのだとわかったうえで、自分と他者を愛し、そして他者のために尽くす。それが敬神奉仕です。さらに『誰かのために、まず私から始めましょう(For someone’s sake, let me begin first.)』という姿勢も、大学として掲げています。本学ではこれらを『英和スピリッツ』という言葉に集約し、教育に反映させてきました。
本学の教育はキリスト教がベースになっていますが、キリスト教を押しつけてはいません。ただ、自分を大切にするというキリスト教の考えは、これからの社会を生きていくうえでとても重要だと思います。本学での4年間を通してそのことを理解し、自分らしい自分、なりたい自分になってほしいです。」
英和スピリッツを養う教育のひとつが、協働力を身につけるカリキュラムだ。コミュニケーション能力を伸ばす授業、キリスト教関連科目群、自由参加の礼拝などを通して、自分を愛して他人に尽くすことに目を向けさせる。
また、リベラルアーツ教育と専門教育の双方に力を入れているのも特長だ。
「リベラルアーツとは、人生の基盤となる力です。本学ではとくに人間科学、臨床心理、保育、国際関係あるいは国際コミュニケーションに焦点を当てた4領域のリベラルアーツを体得し、社会で活躍できる女性を輩出してきました。さらに1年次から専門分野の教育も行い、リベラルアーツと専門性の双方を4年間かけて磨きます。」
4年間を通して少人数制のゼミナール教育も実施。1つのゼミにつき約10~15名の少人数編成で、教員が学生を親身になって支えている。
「ひとりひとりを大切にする、という本学の姿勢がゼミにも表れています。東洋英和では1年次から4年次まで全学生がゼミに所属します。大学での学びの基礎となる情報収集の仕方、読解力、論理的な思考方法や文章の書き方、プレゼンテーション能力などを養う1年次の『フレッシュマン・セミナー』から、2年次の基礎ゼミナール、3~4年の演習・卒業研究と、学生たちはゼミを通して主体的に取り組む姿勢を身につけています。またゼミの担当教員がアドバイザーとなり、学生のサポートも行っているのが特徴です。
授業やゼミを通して得た知識や協働力は、地域と連携した実践の場などを通してさらに磨かれてく。
「授業で聴くだけではなく身につけて実践するために、学生たちが主体となった地域貢献活動が多数展開されています。たとえば大学が所在する横浜市緑区との連携事業では、ドイツのミュンヘンで行われている「ミニ・ミュンヘン」の緑区版「子どものまちづくりイベント」を実施したり、近隣の緑図書館で日本語・英語・ハングルの3言語で書かれた絵本の読み聞かせを行ったりとさまざまな活動を行っています。」
絵本の読み聞かせの様子
ほかにも横浜市が推進する「横浜みどりアップ計画」の一環として、キャンパス内の森を親子で楽しむ「ようこそ英和の森へ!緑いっぱい わくわく造形あそび」や、地域の子どもたちとの交流イベント「こどもの広場」がその一例だ。こうした活動には保育子ども学科の在学生が参加し、保育について実践を通して学んでいる。
「学生はさまざまなプロジェクトに、能動的かつ主体的に参加しています。これは本学で身につけた実践力の表れです。」
英和スピリッツや実践力を養った学生たちが「なりたい自分」を実現できるよう、1年次からキャリア支援も行っている。企業の紹介や面接の指導、社会人との交流など、内容はさまざまだ。
「1年次からキャリアについて考えるのは、卒業という出口を早くから意識してもらうことが目的です。4年間をいかに充実させるかを考えられると同時に、その先を見据えることができます。こうしたサポートの効果もあり、2024年3月卒の就職決定率は約99%となりました。基本的には自分が選んだ先に羽ばたいてくれていますが、とくに人気があるのはエアライン業界です。2024年3月卒では30人ほどがエアライン業界に就職しました。
また、卒業後のアンケートでは毎年8割近い方に『東洋英和女学院大学で学んで社会に出てよかった』と答えていただけています。」
わくわく造形あそびの様子
これからの時代に求められる力を養う。高校との連携にも尽力
開学当初から力を入れている語学教育と情報教育は、現在も変わらず重視している。
「本学は文系の大学ではありますが、リベラルアーツの一環として、情報を扱う力は重要だととらえています。情報について知らないまま社会に出るのは困りますし、文系だから情報分野に詳しくなくてもいい、という考えは通用しないでしょう。ITやデータサイエンスについて必要最低限のことは理解して社会に出てほしいと思い、授業を行っています。複数の科目からなる本学のデータサイエンスプログラムは、文部科学省「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度(リテラシーレベル)」に認定されました。」
情報教育は、「基礎情報科学」、「情報処理演習」といった授業だけに限らない。AIに強い先生が授業外でクラブ活動のような場を設け、有志の学生が学びを深めた事例もあった。基礎を身につけるだけでなく、意欲のある学生はさらに専門的な内容に取り組めるような環境が整っている。
語学教育に関しては、英語以外にも多種多様な言語をカバー。提携している世界11ヶ国・26の大学の言語を学べるよう授業を展開している。
「本学院はカナダの宣教師が設立したこともあり、創立当初から語学に力を入れてきました。英語教育では入学時にレベル分けを行い、語学力の近い人と少人数で学んでいます。在学中の留学や卒業後に海外の大学に行く学生も増えており、これは東洋英和女学院全体の伝統だといえるでしょう。」
語学に力を入れている東洋英和女学院大学だが、そのイメージはまだ高校などに浸透していないことが課題だと語る、星野学長。この状況を改善する機会として役立っているのが、高校生向けの「東洋英和女学院大学英語レシテーションコンテスト」や「韓国語高校生말하기(マラギ)コンテスト」だ。
「英語レシテーションコンテストは次回で11回目を迎えます。第10回大会ではハリーポッターの原作者 J. K. Rowlingさんのスピーチの一節を課題に出し、本人になりきって披露してもらいました。全国の高校生から毎年300人位の応募があり、最終審査では30名ほどを選出し、本学に来て本選に臨んでいただきます。
コンテストの開催によって、本学が英語教育に力を入れていることを高校生の方に知っていただく機会が増えました。『英語の英和』というイメージが浸透しつつあるのは、コンテストの大きな副産物です。」
英語レシテーションコンテスト集合写真
語学コンテスト以外にも、高大連携に力を入れている東洋英和女学院大学。横須賀学院高等学校をはじめ、18の高校と高大連携に関する協定を結び、出張講義や説明会、「学校推薦型選抜 高大連携協定校」入試などを実施している。
「本学をきちんと理解してくださっている高校から生徒さんを受け入れたい、という思いから、高大連携に一層力を入れるようになりました。どの高校も本学の教育に理解を示してくださっていますし、本学で学ばせたい、という生徒さんを送ってくださるのでありがたいです。とくに本学の一人ひとりを大切にする教育、学生と教員の距離が近く親身に教育をしている点などは、高校からも高く評価していただいています。
例えば、協定校の生徒さんには大学の図書館で司書業務の職業体験プログラムに参加してもらっています。アンケートを見るととても満足度が高く、働くことに興味が高まった、学習意欲が向上したと回答されている方が多くいらっしゃいました。プログラムではすべての過程で職員が付き添いますので、参加生徒の様子を記録して、高校の先生方にフィードバックしています。参加した高校生の手元にも戻されるので、自分が感じたことをより客観的に振り返ることができる機会になるのではと思います。」
弱みをカバーし、強みを伸ばす。東洋英和女学院大学の未来像
現在は人間科学部人間科学科・保育子ども学科、国際社会学部国際社会学科・国際コミュニケーション学科といった2学部4学科体制をとっている東洋英和女学院大学。しかし2026年度を目処に、1学部3学科体制への改組を構想中だという。
「私は一昨年に本学の学長に着任し、まずは全教員と面談をして本学の強みと弱みをまとめました。それを踏まえて分析を行い、弱みをカバーし、強みをいかに伸ばすかを重視して、改革の構想を練っています。」
弱みとして挙げられたのが、広報の不足と自然環境の良さからくる立地の不便さだったという。教育内容を積極的に発信してこなかったために、「何を学べるか」が伝わっていなかったそうだ。さらに駅からキャンパスが離れていることで不便さを感じている学生も多かったという。
「駅と大学をつなぐバスに関しては、学生からのアンケートだけでなく、学長宛の投書箱にも要望が多く寄せられていました。学生専用大学シャトルバスはもともと午後だけの運行だったので、1、2限がある人は路線バスを使うしかありません。ですから1限や2限をとっている学生の数を毎学期把握し、全員が乗れる便数で午前中にもシャトルバスを走らせるようにしました。
バスの整備によって立地の弱みはある程度カバーできましたが、広報はまだまだ弱いです。たとえば本学では大学院で臨床心理士を養成してきた実績をいかし、公認心理師の受験資格が取れるのも魅力ですが、これまでの学科名ではそれが対外的にアピールできていませんでした。教育の中身をきちんと知ってもらうために、各学科にはコースを設置し、コースごとの方向性やカリキュラムを明確にして学びの内容や目指せる進路が伝わるような改組を行い、広報活動に力を入れていきます。」
改組後の名称は人間社会学部総合心理学科・子ども教育学科・国際学科(いずれも仮称、設置構想中)を予定。1学部にすることで横断的な学びや、教員の連係もより強化される。
「本学の強みは、ひとりひとりを大切にする教育です。これを改組によってさらに強化していきます。2学部ですと教授会が2つに分かれ、お互いに牽制し合うことがありました。一部の内容が重複して無駄ができることも珍しくありません。だったら同じ屋根の下に集い、みんなで学生を大切にする教育をしよう、と1学部体制を決めました。
現在構想中の改組では「領域横断プログラム」を作り、今まで以上に分野を横断して学びやすくしています。自由に気兼ねなく学んでいただき、しかもそれが卒業単位にもなる。そんな仕組みを2026年度に実現するために、準備を進めています。」
最後に受験生や保護者へ伝えたいメッセージを尋ねると、星野学長は「社会のどこに出ても自分らしく活躍できる人間になっていただきたい」と答えた。
「本学では自分が自分らしく生きていくためのリベラルアーツと専門性を身につけてもらいます。ただ、大学時代は難しく考えず、部活や地域協力、プロジェクトなどに邁進して楽しく過ごしてほしいです。そうして蓄積される経験値をどんどん増やして、社会で自分らしく活躍できる女性になっていただければと思います。」
自分や他者を大切にする愛、そして社会で生きる力と専門性を育む東洋英和女学院大学。その教育が改組によってますます充実するのではと、期待せずにはいられない。
東洋英和女学院大学
星野 三喜夫 学長
1955年6月千葉県生まれ。早稲田大学 法学部卒業、日本大学大学院 総合社会情報研究科 博士前期課程 国際情報専攻修了。新潟産業大学学長などを経て、2022年4月1日より東洋英和女学院大学第7代学長に就任。専門は国際経営、アジア経済、国際金融。