多くの植物は鳥や哺乳類などの動物に種子を果肉と一緒に食べてもらい、種子が消化されずに排泄されることで自力では届かない場所まで種子を運んでもらう。しかし、光合成で自活する植物において、このような種子散布者として昆虫が関わる例はニュージーランド以外では知られていなかった。
神戸大学大学院と東京大学大学院の研究グループは、昆虫が独立栄養植物の種子を食べることで種子の運び屋となっていることを、ニュージーランド以外では世界で初めて証明した。
研究グループは、イワタバコ科の低木であるヤマビワソウに着目。ヤマビワソウは光合成で自活する独立栄養植物とされ、長さ約0.3 mmの小さな楕円形の埃(ほこり)のように小さな種子(埃種子)をたくさん含む半透明の白っぽい果実をつける。今回、鹿児島県の奄美大島でヤマビワソウの種子散布者の調査を行った。
インターバルカメラで約644時間撮影して果実にやってきた動物の行動を観察した結果、カマドウマ(バッタ目カマドウマ科に属する昆虫の総称)の仲間であるアトモンコマダラウマが366回、キマダラウマ属の一種が215回、アマミマダラカマドウマが111回、ムネツヤアメイロウマが21回ヤマビワソウの果実を食べにやってきたことを確認した。また、ヤマビワソウの種子を食べたカマドウマの糞に発芽能力を持つ種子が含まれていることも分かった。
今回の研究は昆虫が広範に種子散布を担っている可能性を示唆している。また、埃種子の進化については、種子に胚乳などの養分を蓄える必要がなくなる寄生能力の獲得が重要視されていたが、昆虫を種子散布者として採用したことそのものが小さな種子の進化の原動力となった可能性もあるとしている。