国立極地研究所、統計数理研究所、東京大学からなる研究グループは、2024年5月11日に起こった巨大磁気嵐を受け、X(旧ツイッター)で日本全国にオーロラ写真の撮影を呼びかけた。呼びかけに応えて集まったオーロラ写真を調べた結果、2つの不思議な特徴が判明した。
1つは、兵庫県のように緯度が低い地域からもオーロラが観測されたことである。研究グループは、市民によって撮影された179点のオーロラ写真を分析し、撮影地点とオーロラの上端の仰角を求めることで、オーロラが発光していた高度の推定を試みた。その結果、通常のオーロラは発光高度が高くても600kmであるのに対し、驚くべきことに、この日のオーロラが発光していた場所は高度1,000km以上であった可能性が高いことが見積もられた。これが、低緯度の地域でも見晴らしがよければオーロラが観測できた最大の理由だとしている。
もう1つの特徴は、オーロラの色が磁気嵐時の低緯度オーロラで典型的な赤色ではなく、マゼンタ色だったということである。これは、当時の5月時点では、地上は夜であっても高高度は日射域にあったことから、太陽光の共鳴散乱によって窒素分子イオンの散乱色である青色が加わり、青い散乱光が同時に見えていたためであるとした。普段は高度1,000km以上にまで窒素分子イオンは存在していないが、磁気嵐では大気の加熱などの影響により、共鳴散乱のもととなる窒素分子イオンが大量に舞い上がっていたと考えられるという。
本研究は、シチズンサイエンスとしてのオーロラ観測の重要性を示す一例となった。今後もシチズンサイエンスによって、オーロラ観測や磁気嵐などの実態解明が一層進展することが期待される。
論文情報:【Scientific Reports】Extended magenta aurora as revealed by citizen science