国公立大学の前期日程の合格発表も終わり、2025年度入試も終盤となっています。私立大学も含めた合格者数の集計がまだ進んでいないため、倍率などの全体像は分かっていませんが、国公立大学一般選抜の志願者数はすでに確定しています。そこで今回は国公立大学の確定志願者数から、2025年度国公立大学の入試動向を概観します。

 

大学入学共通テストの平均点アップで予想ボーダーラインもアップ

 2025年度入試は高校の教育課程が変わって初めての入試、いわゆる新課程入試です。大学入学共通テスト(以下、共通テスト)では新教科「情報」の出題や国語と数学で試験時間が10分増えたりするなど変更点もいくつかありました。特に国語は現代文で問題が1題増えて難化すると見られていましたが、平均点はアップしました。英語リスニング、数学ⅡBC、理科などで平均点が下がりましたが、国公立大学志望者がほとんどを占める総合型(6教科8科目)受験者の平均点は文系、理系ともにアップしています。

 総合型の平均点は、今年から「情報」が加わり、満点値が1000点となっていますので、昨年と単純に点数の比較はできませんが、各社のサイトに出ている得点率で見ると河合塾予想では、文系+2%、理系+1%です。駿台予備校/ベネッセコーポレーション予想では文系+2.4%、理系+1.2%です。

 共通テストの平均点がアップすれば、国公立大学の予想ボーダーラインもアップします。一般的には、共通テストの平均点がアップすれば、予想ボーダーラインがアップしていても、受験生は思い切ってチャレンジします。国公立大学の一般選抜志願者数は、河合塾の入試情報サイトを見ると3月7日集計で志願者数の前年比は前期日程101%、後期日程100%、中期日程106%となっていますので、やや増加といったところです。2025年度は、18歳人口が前年比で103%と増加していますので、大学を志願する実人数も増えていると考えられます。そのため、大学の志願者数は増加基調にはあります。そのことと平均点アップを考えるとやや物足りない感もあります。

 河合塾「教育関係者のための情報サイトKei-Net Plus」では、志願状況を詳しく解説した記事が掲載されています。その記事を読み解くと、そこでは直接触れられてはいないものの、国公立大学の総合型選抜・学校推薦型選抜の拡大によって、一般選抜に出願する対象者が減っていること、平均点アップと第一段階選抜の実施倍率が厳しくなったことなどによって第一段階選抜の予想ラインが上がったこと、などがどうやら志願者数に影響しているのではないかと考えられます。

【河合塾 教育関係者のための情報サイトKei-Net Plus】2025年度国公立大志願状況
https://www.keinet.ne.jp/teacher/exam/topic/index.html

地区別では「北陸」、「中国」、「四国」で増加、昨年の倍以上となった大学も

 河合塾の主に受験生向け「大学入試情報サイトKei-Net」では2025年度入試「出願状況」が掲載されています。そこでは各大学別の志願者数に加えて、「地区別」や「学部系統別」などの集計も掲載されています。

 ここでは募集人員の多い前期日程を見ていきますが、地区別の集計結果では「北陸」、「中国」、「四国」で志願者数が全国平均よりも増えています。前述のように志願者数の前年比は前期日程101%(数字は志願者数前年比、以下同)ですが、北陸111%、中国108%、四国107%です。各地区の個別大学を見ると「北陸」は富山大学134%と拠点となる大学の志願者数の増加に加えて、福井県立大学122%など公立大学での伸びが目立ちます。福井県立大学は恐竜学部を新設したことで話題にもなりました。

 「中国」も岡山大学111%、広島大学110%、山口大学121%と拠点大学で志願者数が増えていることに加えて、公立鳥取環境大学186%、山陽小野田市立山口東京理科大学209%と志願者数が昨年の倍近く、あるいは倍以上に増えていることが影響しています。山陽小野田市立山口東京理科大学は薬学部がこれまで中期日程のみでしたが、今年から前期日程を導入したことも影響していますが、両大学とも昨年の実質倍率が2倍を切っていましたので、その反動が大きいと思われます。また、「四国」でも昨年の反動と思われますが、香川県立保健医療大学280%、高知県立大学138%、高知工科大学167%など極端な志願者数の変動が見られます。

 こうした極端な倍率の変動は、国立大学でも医学科などで見られることもありますが、一般的には公立大学でよく見られます。東京都立大学、大阪公立大学、名古屋市立大学などを除くと、公立大学は入学定員規模が小さな大学が多いこともあって合格者数の増減が倍率に大きく影響することがあります。倍率の隔年による変動を平準化するためには、複数年が必要ですが、大学の規模が小さく人的リソースが限られた公立大学では、継続した取り組みが難しいのかも知れません。

 このほかの地区では、首都圏で東京都立大学、横浜国立大学の志願者数増加が目立ちます。東京都立大学はいくつかの学部の二次試験で英語を新たに課していますので入試科目増です。東京都の18歳人口の増加数が全国で最も多いことがあるかも知れませんが、受験のセオリーに反して志願者数は増えています。横浜国立大学は経済学部、経営学部、理工学部で2段階選抜を実施しないことも影響して増えていると思われます。九州では熊本大学の志願者数が増加しています。熊本県は今、様々な点から注目されていますので、九州以外からの出願も増えているのか、判明するのはかなり先になりますが注目です。

【河合塾の大学入試情報サイトKei-Net】2025年度入試「出願状況」
https://www.keinet.ne.jp/exam/future/

人気の系統は「社会・国際」、「法・政治」、「理」、「歯」、「学際」

 学部系統の人気・不人気が現れる「学部系統別」の集計結果ですが、人気の系統は「社会・国際」、「法・政治」、「理」、「歯」、「総合・環境・情報・人間」です。大学別の志願者数を見ても、東京外国語大学、神戸市外国語大学は増加していますので、私立大学と同様に国際系の人気が戻ったと言えるのかも知れません。ただ、前述の記事では、「社会・国際」の「社会」の増加が大きいとしていますので、「社会」で集計されている大学で反動による志願者数の増加などの動きがあったものと考えられます。

 このほか「法・政治」の増加は難関国立大学の中で最難関の法学部にチャレンジする受験生が増えたものと考えられます。理系では「理学」、「歯学」で志願者数が増加しています。「理学」は特に「数学・数理情報」、「化学」の志願者数が増加しています。「歯学」は2年連続の増加です。医学部志望者が歯学部に流れているとは考え難いため、「歯学」人気があると言って良いでしょう。予想ボーダーラインも医学部ほどではなく6教科8科目で得点率70%台の大学がほとんどです。ただ、医学部に比べて歯学部の入学定員は圧倒的に少ないため、入りやすいとは言えません。いずれにしても「歯学」は今後の動向が注目される系統です。「総合・環境・情報・人間」では「情報」が増えています。国公立大学でも「情報」分野は新設学部などが増えています。私立大学はデータサイエンス分野の勢いがやや落ちていますが、国公立大学についてはデータサイエンス分野の人気は継続していると言えるでしょう。

 今回は主に前期日程の動向を見てきましたが、中期日程や後期日程でも志願者数が大きく動いている大学もあります。特に中期日程では三条市立大学、公立諏訪東京理科大学、周南大学などで志願者数が大きく増えています。これから判明する合格者数と倍率が気になるところです。

神戸 悟(教育ジャーナリスト)

教育ジャーナリスト/大学入試ライター・リサーチャー
1985年、河合塾入職後、20年以上にわたり、大学入試情報の収集・発信業務に従事、月刊誌「Guideline」の編集も担当。
2007年に河合塾を退職後、都内大学で合否判定や入試制度設計などの入試業務に従事し、学生募集広報業務も担当。
2015年に大学を退職後、朝日新聞出版「大学ランキング」、河合塾「Guideline」などでライター、エディターを務め、日本経済新聞、毎日新聞系の媒体などにも寄稿。その後、国立研究開発法人を経て、2016年より大学の様々な課題を支援するコンサルティングを行っている。KEIアドバンス(河合塾グループ)で入試データを活用したシミュレーションや市場動向調査等を行うほか、将来構想・中期計画策定、新学部設置、入試制度設計の支援なども行なっている。
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