ヒトの皮膚創傷の治癒速度が、他の哺乳類と比較して約3倍遅いことがわかった。琉球大学、京都大学、モンペリエ大学、ケニア霊長類研究所の国際共同研究が明らかにした。

 これまでの研究で、ヒトが傷を治す能力は他の動物に比べて遅いことが指摘されている。しかし、ヒトの治癒特性を進化的視点から示した研究はなかったことから、本研究では、ヒトと遺伝的・系統的に最も近縁なチンパンジーを含む複数種の哺乳類を対象に、傷を治す速度を比較することで、その進化的な背景に迫ることを目的とした。

 非ヒト霊長類のうちアヌビスヒヒ、サイクスモンキー、ベルベットモンキーおよび齧歯類のマウスおよびラットについては、研究倫理に配慮したうえで人工的に小さな切創を施し、定期的な画像記録を通じて傷が治るまでの速度(治癒速度)を計測した。ヒトと非ヒト霊長類のうちチンパンジーについては、倫理的配慮から自然に生じた創傷を対象とし、写真記録に基づき治癒の過程を追跡した。

 結果として、非ヒト霊長類および齧歯類ではいずれも平均して1日あたり0.6mmの速度で傷が治り、ヒヒにおいては野生個体と飼育個体の間でも有意な差がなかった。このことから、ヒト以外の哺乳類に共通する「最適な創傷治癒速度」が存在する可能性が示唆された。

 一方で、ヒトの皮膚創傷の治癒速度は1日あたり約0.25mmと、他の哺乳類と比較して平均で約3倍遅いことが確認された。現生する動物のなかで最もヒトに近縁なチンパンジーの治癒速度も、他の霊長類と同じであったことから、ヒトの治癒遅延は、ヒト系統で特有に生じた進化的変化である可能性がある。

 本研究は、ヒトの皮膚にできた傷が治るまでの速度が他の哺乳類と比べて著しく遅いという事実を、初めて進化的文脈から実証した。この知見は、ヒト特有の治癒特性が進化の過程でいつ生じたのかを探る出発点となり、ヒトの身体的適応や制約を捉え直すための新たな視点を提供することが期待される。

論文情報:【Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences】Inter-species differences in wound-healing rate: a comparative studyinvolving primates and rodents

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