麻布大学獣医学部の今野晃嗣講師と城崎マリンワールド(兵庫県豊岡市)との共同研究グループは、これまで鯨類・大型類人猿・犬・猫など限られた動物だけとされた「人の動作の模倣」が、世界で初めてアシカやトドなどの鰭脚(ヒレアシ)類でも可能であることを証明した。
社会学習のなかでも、ヒト以外の動物が異種であるヒトの動作そのものを模倣することは難しいことが示唆されている。これまでに大型類人猿(チンパンジー)と伴侶動物(イヌとネコ)と一部の鯨類(シャチとベルーガ)でしか報告されていなかった。
そこで共同研究グループは、城崎マリンワールドの「ハマ」という名のトド(メス・14歳)を対象に、「Do as I do(私のマネをして)」と呼ばれる模倣トレーニングを実施。飼育員が行う3種類の基本動作(立ち上がる、舌を出す、首を振る)を使ってトレーニングを行ったところ、ハマはルールをすぐに学習した。
次に、3つの基本動作以外で、すでに別の方法で学習していたが今回のトレーニングで教えていない動作についてもテストしたところ、ハマは飼育員の動きを即座に正確に模倣できた。
また、教えたことのない完全に新しい動作(2種類)も模倣できた。さらに、飼育員の動作終了時にハマから見えないように姿を隠し、すこし時間を置いた後に真似をするという条件でも正確に模倣した。これは動作を一度見た後に頭の中でイメージしてそれを保持して再現するという、人間が行う模倣に近いもので、「真の模倣」と呼ばれる。
ハマが示した模倣能力が他のトドでも再現できるかは不明だが、今回の結果から、これまで考えられていた以上にトドには高い社会的学習能力があり、異種動物であるヒトから多くの情報を学んでいることが明らかになった。
論文情報:【Animal Cognition】Do as I do imitation in a steller sea lion Eumetopias jubatus