サウンドストレス(音ストレス)だけで「痛み」が生じることを、東京理科大学の研究グループがマウス実験により明らかにした。

 痛みは、生理的・物理的な刺激だけでなく、心理的なもの(感情)によっても発生しうることが近年明らかとされている。例えば、痛みを感じているマウスと、なにも刺激のない「傍観者」マウスを同じ環境に置くと、「傍観者」マウスも痛みを感じ、痛覚過敏を示すことがわかっている。このような現象を「感情伝達」と呼ぶが、心理的な感情がどのように痛みに関係しているのかは明らかとなっていない。

 本研究では、感情伝達が起こる要因として「音」に着目し、痛み反応中のマウスの発声音が感情伝達に関わっていると考えた。マウスは主に超音波領域の音でコミュニケーションを取っているため、痛み反応中のマウスの鳴き声から超音波部分(20kHz以上の音域)を抽出し、「サウンドストレス」を作製した。

 このサウンドストレスを、痛みを与えていないマウスに4時間曝露させた結果、翌日と3日後にマウスの痛覚が明らかに過敏になることがわかった。また、脳内では炎症関連遺伝子の上昇を認め、炎症治療薬(ロキソプロフェン)を投与すると痛覚過敏が有意に改善することがわかった。このことから、痛みを感じているマウスが近くにいなくても、超音波領域のサウンドストレスだけで痛みの感情伝達が発現し、痛覚過敏を引き起こす脳内炎症を誘発することが示唆された。さらに、既に炎症反応を起こしているマウスにサウンドストレスを曝露させた場合は、疼痛が悪化する上に、治療薬を投与した際の鎮痛効果が弱くなることも見出した。

 本研究成果は、ヒトにおいても、ストレス音が痛みや回復を悪化させる可能性を示唆している。今後、さらに研究を重ねることで、痛みのコントロールや、痛みを低減する医療環境の整備などへの応用が期待される。

論文情報:【PLOS One】Pain-stimulated ultrasound vocalizations and their impact on pain response in mice

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