高大接続改革に伴う見直しにより、2021年度の入試から調査書の様式が変わります。その結果、調査書に記載される情報量が増加します。これによって、調査書を作成する高校の先生方の負担は重くなることが予想されますが、総合型選抜(旧AO入試)や学校推薦型選抜(旧推薦入試)では、書類審査を行う大学側にも負荷がかかりそうです。また、情報量が豊かになった調査書を、一般選抜の合否判定資料として活用する国公立大学も見られるようになってきました。各大学の調査書に対する取り扱いは、これまでと変わるのでしょうか。また、ポートフォリオとの関係はどうなるのでしょう。
 

様式変更により、高校が調査書の作成にかける負担が増す

 調査書の様式変更は、生徒の特徴や個性、多様な学習や活動の履歴について、より適切に評価を行うことを目的として行われます。これにより調査書の裏面に当たる「指導上参考となる諸事項」の欄が拡充されます。もともとは高大接続改革の議論から様式が改められることになったのですが、文部科学省は、調査書に記載される生徒の学習活動についての情報量を増やせば「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」の多面的・総合的な評価に活用できると考えたのでしょう。これまで裏表の両面1枚だった調査書の様式制限を撤廃して、弾力的に記載できるようにしました。弾力的とは、つまり、記載する情報量が多い生徒の場合、調査書が2枚、3枚と増えていくことも有り得ます。評価を行う際には、情報量は少ないよりも多い方が、様々な角度から検討ができます。大学にとっても情報量が増えることで、多面的・総合的な評価のための有用な資料となります。一見すると理に適った施策と言えなくはないでしょう。

 しかし、記載する情報量が増えることで、調査書を作成する高校の先生方の仕事量は確実に増えます。また、記載できる活動実績などが豊富な生徒は良いのですが、記入欄が増えた分だけ、特別な活動歴がない生徒は空欄が多くなります。空欄が多いと書類審査をする大学側からは、活動歴が乏しく見えて、当然、評価にも影響することが考えられます。そうなると、できるだけ調査書に記載する情報量を豊かにしてあげたいと考える先生方の仕事量は、ますます増えてしまいます。仮に、調査書作成にあたって、あらかじめ用意された複数パターンの文例集からコピー・アンド・ペーストしたとしても、作業時間は倍近くにになるでしょう。

 

一般選抜ではあまり活用されてこなかった調査書のあり方が変わる?

 これまで以上に労力をかけて作成される調査書ですが、「学習成績の状況(5段階評価の旧評定平均値)」や「出欠の記録」を除くとほぼ定性的な情報です。そのため、大学側の評価者が活動歴や実績などを読み込んで、点数化して合否判定の資料とすることは、かなり難しい作業となります。これが多くの大学の一般選抜で、調査書が合否判定としてあまり活用されてこなかった理由の一つです。一般選抜は試験実施から合否発表までの期間が短いことから、一人ひとりの調査書を丁寧に審査する十分な時間が取れません。これまで一般選抜では、調査書は受験資格の確認か、「学習成績の状況(旧評定平均値)」をデータ化して、入学後のIR調査のデータとして活用するにとどまっているケースがほとんどでした。

 しかし、河合塾入試情報サイトKei―Netによると一般選抜で調査書を点数化して合否判定に使用する国公立大学が増えています(2021年度 国公立大学入試変更点 https://www.keinet.ne.jp/exam/2021/change/k_index.html )。点数化の具体的な方法を公表している大学は、現段階では多くはありませんが、筑波大学は活動の内容の優劣を評価するのではなく、活動の有無のみを点数化すると公表しています。活動内容の有無のみを評価の対象としたこの方式は、2022年度入試から予定されている調査書の電子化により、評価作業の効率化が可能となるため、よく考えられた方法と言えます。

 ただ、他の大学では、「志望理由書と合わせて総合的に判断して点数化する」などの表記が見られるため、調査書点数化の配点が全体に占める割合は小さいとは言え、評価方法の曖昧さが気になります。「学習成績の状況(旧評定平均値)」の5段階評価の値をそのまま点数化して加算する方法を取るのではないかと推測もできますが、それでは情報量が豊かになった調査書の活用法としては、いささかシンプル過ぎるのではないでしょうか(大学の実務担当者からはお叱りを受けるかも知れませんが)。

 一方、私立大学では「入学後の教育上の資料として活用する」としている大学が多いものの、加点して合否判定に活用するケースは、ほとんどありません。なお、これに関連して、出願時に「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」に関する活動や経験の入力を求める私立大が、難関大学を中心に散見されますが、私立大学の一般選抜の平均倍率は4倍です。つまり、出願時にせっかく入力しても、そのうち合格した25%のデータが活用されるだけで、不合格者分の75%のデータは活用されません。さらに言えば、合格した25%のうち、入学者のデータのみが活用されますので、25%に入学手続率の平均値30%をかけると実際に教育上の資料となるのは志願者全体の7.5%・・・です。

 ところで、変更される調査書の様式はどのように変わるのでしょうか。
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神戸 悟(教育ジャーナリスト)

教育ジャーナリスト/大学入試ライター・リサーチャー
1985年、河合塾入職後、20年以上にわたり、大学入試情報の収集・発信業務に従事、月刊誌「Guideline」の編集も担当。
2007年に河合塾を退職後、都内大学で合否判定や入試制度設計などの入試業務に従事し、学生募集広報業務も担当。
2015年に大学を退職後、朝日新聞出版「大学ランキング」、河合塾「Guideline」などでライター、エディターを務め、日本経済新聞、毎日新聞系の媒体などにも寄稿。その後、国立研究開発法人を経て、2016年より大学の様々な課題を支援するコンサルティングを行っている。KEIアドバンス(河合塾グループ)で入試データを活用したシミュレーションや市場動向調査等を行うほか、将来構想・中期計画策定、新学部設置、入試制度設計の支援なども行なっている。
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